にゃーめん

もっと遠くへ行こう。のにゃーめんのレビュー・感想・評価

もっと遠くへ行こう。(2023年製作の映画)
3.3
星新一のショートショートとか、「世にも奇妙な物語」方面のヘンな話が好きな人におすすめの近未来SF。

「aftersun」でポール・メスカルに心射抜かれ、シアーシャ・ローナンの名前があればどんな駄作でもとりあえず観る者としては、これはいち早く抑えねばという思いで鑑賞。

2065年、地球の温暖化が進み人類の移住先が宇宙ステーションに既にあるという、ありがちな舞台設定は割とどうでも良くて、「夫に抑圧された妻側の心の開放の話」であると解釈。

要約すると広い意味での「倦怠期カップル物」。

お隣さんは5km先ですみたいな、ポツンと一軒家のだだっ広い農場の側の家に2人っきりで住み続けなきゃいけないってのは、もうそれは妻としては結婚した翌日から軽い軟禁状態のようなもの。

外での仕事はさせてもらえてはいるけど、ウエイトレスのようなやりがいのない仕事で、趣味のピアノも夫からはよく思われていない。地下の倉庫でコッソリ弾くピアノの旋律が物悲しい。

夫側の独占欲、支配欲が強ければ強いほど、代々続く"家"に閉じ込められ、夫の世話をし続ける妻のストレスったら無いし、「自分が自分で無くなってしまう」「生き生きと暮らせなくなっていく」鬱憤はそりゃ〜たまるわなと。

そんな状態まで拗れた夫婦が、出会った時のピュアな気持ちに戻るため、夫とそっくりのクローンでもう一度やり直せるかっていったらそれは無理な話で。
逆にクローンの登場により、さらに夫婦関係を悪化させることになるよね〜というオチは先が読めてしまい残念。

この作品は話の筋より、演技派俳優2人(妻役のシアー・シャローナンと夫役のポール・メスカル)の芝居合戦を堪能するためのもの、と頭を切り替えると良いかもしれない。

クローンの夫と本物の夫を2役演じたポール・メスカルのキャスティングはグッド。
相変わらず背中で語る芝居が上手い。
なんであんなに背中で物悲しさを表現できるのか。
もうずっと上裸でいてくれないか。

2回出てくる"動かない虫"と"雨のシーン"でクローンの反応なのか本物の反応なのかが分かる仕掛けが面白い。

抑圧された妻の話という点では、類似作品として「ドント・ウォーリー・ダーリン」(男性の考える理想の妻像の押し付け)を彷彿とさせた。

大量生産される"ブロイラー"のような妻や夫が、近い将来出現しそれに本物が嫉妬するような未来はゾッとする。

温暖化で荒廃しているのにどこか美しさを感じる広大な自然を背景に、修復不可能なほどに拗れてしまった夫婦関係を描くという何とも不思議な取り合わせの作品であった。
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