にゃーめん

異人たちのにゃーめんのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.5
故山田太一原作の『異人たちとの夏』に脚色を加え、再映画化した本作は、社会生活で生きた人間と多少関わりがあっても「孤独」を感じた事がある人は、もれなくブッ刺さる内容に仕上がっていた。

40代ともなると、学生時代の友達は大半が結婚して郊外に家を買い、段々と疎遠になっていくため、結婚に縁の無かった独身貴族は必然的に孤独死まっしぐらコースで、漠然と将来に不安を抱えて残りの人生を歩むことになるのだが(ここまで書いていて、なぜか目から液体が流れてくるのはなぜだろう)

本作の主人公のアダム(アンドリュー・スコット)も同じような境遇で、人との関わりを避けるように、人の気配のない無機質なタワマン住まいで独身を謳歌している中年男性である。

大林宣彦監督版の『異人たちとの夏』(1988)との共通点は、主人公が12歳で両親を事故で亡くしていること、実家に帰ると80年代時点の両親と会えることなのだが、大林監督版と大きく違うのは、アダムがクィア(ゲイ)であるという点である。

性的マイノリティでなくても、何かしらのマイノリティを自覚して社会生活を送っている人々にとっては、自分以外の他の人間は全員、「見知らぬ人々」(原題:All of Us Strangers)で、それが血が繋がった親であっても、結局は自分とは異なる人間なのだと痛感してしまったのが、アダムの父親(ジェイミー・ベル)のセリフだった。

ゲイである故にいじめられていた事を告白したアダムに対して、「自分が同級生だったらいじめる側に立っていただろう」というセリフは、あまりにも辛い一言だった。

親へのカミングアウト問題で言うと、日本のドラマシリーズ「きのう何食べた?」でもゲイカップルが、自分のパートナーを実家に連れていくというのが大きなイベントとして描かれていたが、両親にパートナーの存在を認めてもらう事が当事者達にとってどれだけ心理的ハードルが高いことなのか、本作でも思い知らされた。

80年代のゲイに対する認識が、現代はHIVの治療や予防が出来るようになったことからも変わりつつあるが、当事者的にはまだまだ生きやすいとは決して言えない現状であるという切実なメッセージも込められており、こうしたテーマを「異人たちの夏」の再映画化で実現できたという点は感慨深い。

原作者の山田太一さんも完成版はご存命の間にご覧になったとのことで、感想を是非伺ってみたかった。

最後に特筆すべきは、アダムの心の支えとなるパートナーのハリー(ポール・メスカル)の常に寂しげな目の芝居である。

「aftersun」でも大変印象的な役どころであったが、本作のポール・メスカルが大きな身体を縮こませ、アダムに甘えるように眠る姿がしばらく目に焼き付いて離れない。

「孤独」を拗らせた大人達に是非観てほしい。
にゃーめん

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