にゃーめん

ミッシングのにゃーめんのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
3.8
人間のもつ"悪意"を露悪的にこれでもかと描かせたら右に出る監督はいないのでは?と個人的に思っている吉田恵輔監督の最新作は、またもや胸糞な人間の悪意全開フルスロットルな作品で大変見応えがあった。

主演の石原さとみさんが、監督に直談判し6年待って主演の座を得られたという触れ込みで、気合いが入りまくった本作。

今までのキャリアで培ってきた石原さとみ像を360度覆すような役柄で、まさしくターニングポイントとなる作品であったと思う。

6歳の女児が失踪し、なんの手がかりもないまま追い詰められ、心がブッ壊れてしまう母親役は、例えば安藤サクラさんのような、演技派の女優が演じても様になったとは思うが、港区系エレガンスのイメージがゴリゴリについている石原さとみさんが演じることで、耳目を集めるというパターンもあるのだな…という気付きを得た。

本作は、実際の幼女失踪事件(山梨キャンプ場女児失踪事件)を彷彿とさせる為、実際の事件事故の当事者の親御さんも、本作の紗織里(石原さとみ)や豊(青木崇高)と同じような目にあっているのだろうなと思うと大変胸が苦しく、観客に当事者性を持たせるという意味でも社会的意義のある作品であったように思う。

報道する側も、視聴率を稼ぎたいがために、自分達の作った御涙頂戴な被害者ストーリーに仕立てて"事実"に色をつけて放送しているという点に触れたのも、ドラマシリーズの「エルピス」を彷彿とさせた。

視聴者ウケする事実を得てしまい、放映するかどうかプロデューサーと言い争う砂田(中村倫也)のシーンも印象的で、
「視聴者はその"事実"を面白がっているんだよ」というプロデューサーの言葉が刺さってしまった。

偏向報道によって形作られる大衆の悪意、そんな悪意まみれの世界を描いた後の、少ないながらも主人公夫婦に手を差し伸べる善意のなんとあたたかいことか。

青木崇高さんの芝居もとにかくよく、ヒスりまくって自暴自棄になり、何かと攻撃的な妻を辛抱強く冷静に支える夫のキャラクターが素晴らしく良かった。
人の善意に触れた時に、堪えきれずに涙する芝居は忘れられない。

心無い人たちの悪意にまみれていた頃は見えなかった、熟れたみかんの美しさや、色のついたガラス瓶を通した虹のようなやわらかな光等、救いのあるカットに安堵した。

私も、もう少し人間の善意を信用してみてもいいのかもしれない…。
にゃーめん

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