てっぺい

ディア・ファミリーのてっぺいのレビュー・感想・評価

ディア・ファミリー(2024年製作の映画)
4.5
【言葉に涙する映画】
娘のために人工心臓の開発に挑んだ父と家族の実話。娘の“私の命は大丈夫だから”に涙腺崩壊、至る所で出る命の言葉に泣かされる。それでもなぜか、見終わると前向きな気持ちになれる不思議な力を持つ一本。

◆トリビア
〇オファー当時を振り返り、自身も1人娘を持つ事から非常につらい撮影期間が予想できたという大泉洋。佳美さんの『私の命はもう大丈夫だから、技術をたくさんの方に使ってほしい』という言葉に、「どうしたらそんなことが言えるんだろう、この物語を知りたいと強く思わされたんです」と引き受けたきっかけを明かしている。(https://natalie.mu/eiga/news/570743)
〇モデルとなった筒井宣政氏との面会の機会があったという大泉。「80歳を超えてらっしゃるけれどパワフルで雄弁で。困難を前にしても絶対あきらめない。弱音を吐かない。そのお姿を胸にしまって、演じました」と語る。(https://eclat.hpplus.jp/article/126994)
○佳美を演じるうえで、自然に見えるよう意識したという福本莉子。作品に入る前に、佳美の子役と話すスピードやトーンを調節したという。また、「佳美が一家の太陽だった」という家族の言葉に、佳美が家族の原動力となって、みんなを動かしていくような存在になればと思いながら演じたと話す。(https://media.osakastationcity.com/?p=12686)
〇一番心が躍ったのは、佳美を助けられないと分かった後で、医療機器の開発が家族みんなの目標になっていくところだという月川監督。「命が尽きて悲しい物語ではなく、家族が目標を達成して、今も救われる人がいることに感動させられる映画にしたかった」(https://hitocinema.mainichi.jp/article/interview-dearfamily-tsukikawashou)
〇「こだわったのはリアリティー」という月川監督は、家族に何度も質問し『携わった人がウソとは言えない』というラインを指針にしたという。劇中に登場する実験装置もできるだけ実物に近づけ、人工心臓の試作品は本物を借用。40年以上前の町並みや風俗も、忠実に再現し、家族のエピソードや会話も、証言に基づいたという。(https://hitocinema.mainichi.jp/article/interview-dearfamily-tsukikawashou)
〇月川監督曰く、家族が話す度に涙ぐむエピソードがあったが、あえて映画には盛り込まなかったという。「佳美さんが、他の人の命が救われて喜ばしく受け止める、前向きな映画にしたかった。」(https://hitocinema.mainichi.jp/article/interview-dearfamily-tsukikawashou)
〇モデルとなった筒井宣政氏が客員教授を務める名古屋大学のキャンパスには、筒井さん夫妻の寄付により整備された茶室があり、その名前は佳美さんの戒名である「白蓮庵(びゃくれんあん)」。(https://note.com/nagoyauniversity/n/na5d06af74348)

◆概要
世界で17万人の命を救ったIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルの誕生にまつわる実話を映画化したヒューマンドラマ。
【原作】
清武英利『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』(主人公のモデルとなった筒井宣政氏と20年以上にわたり親交のあるノンフィクション作家による膨大な取材ソース)
【脚本】
「糸」林民夫
【監督】
「君の膵臓をたべたい」月川翔
【出演】
大泉洋、菅野美穂、福本莉子、新井美羽、上杉柊平、徳永えり、満島真之介、戸田菜穂、川栄李奈、有村架純、松村北斗、光石研
【主題歌】Mrs. GREEN APPLE「Dear」
【公開】2024年6月14日
【上映時間】116分

◆ストーリー
1970年代。小さな町工場を経営する坪井宣政と妻・陽子の娘である佳美は生まれつき心臓疾患を抱えており、幼い頃に余命10年を宣告されてしまう。どこの医療機関でも治すことができないという厳しい現実を突きつけられた宣政は、娘のために自ら人工心臓を作ることを決意。知識も経験もない状態からの医療器具開発は限りなく不可能に近かったが、宣政と陽子は娘を救いたい一心で勉強に励み、有識者に頭を下げ、資金繰りをして何年も開発に奔走する。しかし佳美の命のリミットは刻一刻と近づいていた。


◆以下ネタバレ


◆カテーテル
91年、どこかの手術室、“あのカテーテルを使うぞ”と主治医が言う冒頭。ここに、本作がこのカテーテルにまつわる物語である事が記される。同時に、振り返ればあの少女はインタビュアーの山本であり(13歳の時と話していたので年齢設定が有村架純では合わないが、映画の文脈上はそう)、始まりと終わりで一つの伏線回収にもなっていた。また、本作で驚いたのは、カテーテルの開発に入ったのが、佳美が亡くなってからではなかった事。あの印象的な肩揉みシーンで、“私の命は大丈夫だから”との佳美の言葉に、カテーテルの開発が父と佳美の夢になり、そして家族の夢になっていく。父の孤軍奮闘でなく、佳美も含めたまさにファミリー一丸となって成し得た夢が、史実であることに改めて驚かされる。

◆ディアファミリー
そんなカテーテルの開発が寸手のところで頓挫し挫折する父を、佳美の日記が鼓舞するシーン。“お父さんは絶対に諦めない”、その言葉の通り父は立ち上がり、そして日記に綴られた、佳美の家族に対するそれぞれの感謝の言葉が続いていく。思えば、冒頭では幼い頃の佳美のモノローグが入り、後半でその日記を読むモノローグで挟む、本作はある意味佳美目線の物語。ディアファミリーというタイトルは、そんな佳美が家族に向けた感謝の気持ちの事だったように思えた。もっと言えば、坪井を車で4時間かけて名古屋まで送り届け、自らの危機を省みず坪井のカテーテルを最初に使った富岡はもはや家族の一員のよう。坪井と研究を共にしたあの医者の卵たち(3人に誠実にありがとうと握手する坪井にも泣けた)も、カテーテルの成功を国内外に拡大させていく。坪井を中心に、本作にはもう一つの家族の形が描かれていたようにも思えた。

◆ラスト
“ありがとうは佳美に言ってやってください”と坪井が山本に話すラスト。「佳美さんが、他の人の命が救われて喜ばしく受け止める、前向きな映画にしたかった」との監督の言葉の通り、佳美が亡くなる事を直接的に描かず、お涙頂戴にしなかった采配が素晴らしい。“次はどうする?”と陽子が宣政に語りかける。思えば、挫折する度に自らを鼓舞するように使っていたこのフレーズ。ラストの陽子のそれは、同じ鼓舞でも、成功を成し遂げた宣政がまだ先に見据える何かへの期待のようにも聞こえる。会場へ向かい二人が白い光に包まれるラストカットは、そんな明るい未来を象徴するようでもあり、天から見守っているだろう佳美と魂で繋がるよう。見終わると、じわじわ心が温まり、前向きな気持ちになれる素晴らしい作品でした。

◆関連作品
○「君の膵臓をたべたい」('17)
月川監督の代表作。カニバリズムではなく、純愛の物語。プライムビデオ配信中。
○「糸」('20)
本作脚本の林民生の代表作。中島みゆきの楽曲から着想を得たオリジナルストーリー。プライムビデオ配信中。

◆評価(2024年6月14日現在)
Filmarks:★×4.2
Yahoo!検索:★×3.3
映画.com:★×4.7

引用元
https://eiga.com/movie/100753/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ディア・ファミリー
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