【詳細は、『亜細亜の娘』欄で】フラット(で形にならぬ至福感)な戦後に比べ、初期のこの作家は、あくまで素朴も独自の造型の優れた現れと、いつしか橫移動美の瞬間を持つ。日米開戦が証明するラストは流石に無理あるも、世評·世間に流されない、献身ベースと公私区別は、きれいごとを越えた実がある。

女性が涙を流す場面が幾度も出てくる。しかし、その涙は出征することへの涙ではない。男と離れることへの涙であり、反戦思想はない。田中重雄は軍部の要請に応えた戦意高揚映画を佐々木康と並んで多数作っている。しかも凡庸な作品ばかりで、人道的な『西住戦車長伝』、特撮技術を大きく前進させた『ハワイ、マレー沖海戦』、『加藤隼戦闘隊』のような評価すべき点が皆無なのだ。タイトルの『我が家の風』も「大君」（天皇）に報じる出征の美化であった。

助監督：鈴木英夫
家の壁に歌を書く中田弘二。海を眺め、その後に割腹自殺。飛行兵を目指す彼の子供。退役中将いわく、日露戦争で死んだ者たちが、太平洋戦争において蘇ってくる。戦争が始まったことに嬉し泣きする家族。