カツヤ

かづゑ的のカツヤのネタバレレビュー・内容・結末

かづゑ的(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

素晴らしかった。
ハンセン病についてであり、パートナーシップについてであり、老いについてであり、そして親子愛についてでもある。病によって受けた差別や偏見、夫との生活、病と老いによって思う通りに動かなくなる身体。
ハンセン病のため10歳の頃に岡山の療養所、長島愛生園に入所、それから80年以上の月日を島で過ごすかづゑさん。夫の孝行さんと暮らしながら、自身の経験を本にしたため、出版する作家でもある。長島愛生園の平均年齢は現在88歳。私個人としても、ハンセン病についてはほとんど知らないことばかりで、きっと同世代の人は大体そんな感じだと思う。とんでも無く恥ずかしいことだが、まさにこのままでは歴史に置き去りにされてしまう。そうならないためにも自ら声を上げるかづゑさんと、8年に渡って取材を続けた熊谷監督を尊敬する。
カメラの前で声を上げて笑い、涙し、ときに怒りを見せるかづゑさんの長い長い歴史のほんの一部分しか私たちは観ることはできない。でも、熊谷監督に会えて考え方が変わったと語るかづゑさんの、その変化の一端を見ることができて本当にラッキーだ。そんな監督と被写体の相互影響も垣間見得る、信頼に基づいた映画だった。
支援者(見学者?)が療養所を訪問したときに「ふるさと」を歌ったことに対し、かづゑさんが憤りを見せるシーンでは、安全圏から一面的な解釈を行うことの傲慢さを改めて感じた。私たちが所謂「弱者」を「助ける」とき、それは誰にベクトルが向いているものなのか、そのベクトルが向いた人たちがどう感じ、どう動くかを想像することなしでは、それはサポートでもなんでもなくなる。
上映後トークで「愛情の貯金が目減りしなかった」と語った監督の言葉が印象的だった。母親の墓石に抱きついて離れないかづゑさんだが、彼女の母親は年に数度は欠かさず療養所へ見舞いに来た。激しい偏見があった時代、家族が療養所を訪れることはほとんどなかったそう。そんな母の愛、そして孝行さんとの生活があったから、療養所内でも繰り返される差別や嫌がらせの連鎖(ある意味で障害の「ランク」を付けるようなその悍ましさ)のなかでも尊厳を守り続けることができたのだと思う。
「みんな受け止めて逃げなかった」と語るかづゑさんの言葉の話を知ることができて本当に良かった。
カツヤ

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