◎時代劇の『カメ止め』 斜陽を逆手に取った熱量
大評判の『侍タイムスリッパー』、ようやく観た。
もはや関西だけの特異現象ではなくなったようだが、公開開始後に評判が高まるにつれ、上映館がどんどん増えていく様子は、まさしく2019年に社会現象となった『カメ止め』ブームの再来を見るようだった。
【以下、ネタバレ注意⚠️】
パンフレットを読むと、2023年10月の(吉本の撤退で今は無き)京都国際映画祭の客席で起きた大きな拍手や上映中の笑い声に手ごたえを感じ、安田淳一監督は、『カメ止め』現象について「あの奇跡に再現性はある」と確信を得ていたとのことである。
*1 「カメ止め」「アンスク」上田慎一郎×「侍タイムスリッパー」安田淳一が対談! 【低予算インディーズ映画の大ヒットの歩み】
2024年11月15日 19:00
eiga.com/news/20241115/19/
確かに出演者に有名な俳優は皆無(ゴメンナサイ、山口さん)だし、映画としてのルックも、いかにも低予算感丸出しであることは否めない。
だが、俳優陣はネイティブ関西人を感じさせる、地に足のついた生活感を体現して演技にはウソがないし、東映撮影所を古巣とするスタッフや斬られ役たちは、自分たちの映画を撮っているのだという喜びを隠せないように見えるのが如実に伝わって来た。
こんなところに本作成功のカギがあるように思える。
何より本作の「主題」とも言うべき殺陣は完璧、‥‥というか、この何年かに観た新旧の時代劇作品のなかでも最も胸躍る真剣勝負な立ち回りシーンに出会えたと言って良い。
もともと福本清三氏に内諾を得ていたという殺陣師関本役は、氏が2021年初頭に惜しまれつつ物故したため、峰蘭太郎氏に。
この峰氏が、斬られ役としての年季はいざ知らず、正直、芝居は福本氏より余程上手く、本作の劇映画としての水準向上に大いに貢献していた。
現代の京都太秦にタイムスリップして来た高坂新左衛門(山口馬木也)が居候する西経寺(実際は亀岡の龍潭寺でロケしたらしい)の大黒(住職の妻)を紅萬子。
*2
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/紅萬子
*3 ぶらり亀岡 龍潭寺
www.kameoka.info/seeing/ryoutanji.php
一時期、そのままの芸名ではNHKには出られないことから「紅壱子(かずこ)」に改名していたが、関東人の小生が関西に来て衝撃を受けた漢字のまま読む彼女の元の芸名に戻していたとは喜ばしい。
まさに熟練の、味が染み渡った古漬けのような京都の普段着の「お母はん」ぶりを自然体で魅せてくれている。
これも素人臭いの極致のような手作り感満載のパンフレットに、びっしり行を詰めて書かれた安田監督本人の文章の密度の濃さからも、本作にかける熱量の高さが否応なく伝わっては来る。
しかし、いかんせん、『カメ止め』と違い、本作はかなりの長尺だ。
もう少しエピソードを交通整理するなどして、綺麗に短くまとめることも出来たのではないか。
それに、ラストシークエンスの「真剣勝負」、本身=本物の刀での勝負を撮影するという設定。‥‥
これだけは、いくらファンタジーとは言え、どう考えても銃刀法違反をクリアできる説明もないものだから、終演後もモヤモヤが残ってしまった。
‥‥とまぁ、難点もあるものの、そういった部分を含めて、ある種の「可愛げ」として愛されてしまったらブームはホンモノだ。
まだまだ続きそうなロングランに、いよいよ『カメ止め』超えのホンモノ感が出て来た時代劇の新星ではあった。
そうそう、サムネイルにも採用されているポスターのアートワーク、パンフレットの裏表紙に「レイアウトとデザイン」として、松崎佐知子、安田淳一と名前を並べて記してあるが、実写加工なのに、まるでアニメの決めショットかのように見えるこのデザインは素晴らしい。
安田監督のデザインセンスが反映されているとしたら、それも本作成功の一因だと思う。
それから、鑑賞した上映館のイオンシネマ大日、やたらロングランを続けていると思ったら、本作ロケ地の一つ。
期せずして聖地巡礼ができてしまったという一幕ではあった。
*4 深掘りシネマ 2024.10.17 2024.12.24
侍タイムスリッパー 聖地(ロケ地)13か所はどこ? デラックス版も含めて紹介
cinemajoys.com/samuraitimeslipper_location-1309