MasaichiYaguchi

ぼくが生きてる、ふたつの世界のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.1
作家・エッセイストの五十嵐大さんによる自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」を呉美保監督が吉沢亮さん主演で映画化した本作は、きこえる世界ときこえない世界を行き来するというコーダの葛藤や苦悩を交えながら親子の情愛を描いていく。
宮城県の小さな港町、耳のきこえない両親のもとで愛情を受けて育った五十嵐大にとって、幼い頃は母の“通訳”をすることも普通の日常だった。
しかし成長すると共に、周囲から特別視されることに戸惑いやいら立ちを感じるようになり、母の明るさすら疎ましくなっていってしまう。
複雑な心情を持て余したまま20歳になった大は逃げるように上京し、誰も自分の生い立ちを知らない大都会でアルバイト生活を始める。
日本版「コーダ あいのうた」とも言うべき本作は、アカデミー賞を受賞したアメリカ・フランス・カナダ合作映画同様に、母役の忍足亜希子さんや父役の今井彰人さんをはじめ、ろう者の登場人物には全てろう者の俳優を起用している。
これらのキャストたちの熱演による本作では、コーダの苦しみが描かれつつも、そこにあるのは普遍的な親子の愛情であり、それが心のひだに触れてきます。