夏木りん

映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記の夏木りんのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

まあ面白くはないのですが、つまらない、出来が悪いかというとそれもちょっと違って、「対象年齢が下がった」が近いんだと思います

あんまりこれを自分にハマらなかったことの言いわけに使うの好きじゃないんですが…とはいえクレしんらしいシニカルなギャグを減らして恐竜の名前をもじったダジャレで笑いを取るスタイルで進めていくのは大人にとってはううん…かもしれませんが子供向けとしては大正解でしょう
(好きなギャグもありました。「一生にたった一度しかない5歳の夏休みなんだゾ」とか)

ギャグに限らずほぼすべての要素がこういう「よく言えば王道、悪く言えば予想を裏切ってこない」感じです。
オラたちの恐竜日記ってタイトル、100人が聞いたら100人が完成した日記がアップになって終わりだろうな〜って思うじゃないですか。それを変にひねらず真正面からやってくれる。そういう映画です。途中完全に日記要素忘れてたけど
はいここ伏線ですよ!はいこいつ悪いやつです!はいここ泣くとこですよ!はい今から名言言いますよ!がとにかくわかりやすく作られていて、ただ一人の観客も置いては行かないぞという気概を感じます。特にはいここ泣くとこですよ!に関しては作画まで変えて教えてくれるからすごい。
今から名言言いますよ!についてはしんのすけやひろしの「こういうセリフをかっこつけずに平然と言える」ことのかっこよさが失われてしまっているのであまり褒められませんが…

たとえば今作の悪役であるバブル・オドロキーは恐竜を暴れされる役割を与えられた単に悪いやつなんですが、かといってニンジャの長老ほど舞台装置すぎはせず、こうなるまでの経緯は最低限描かれています。
最低限描いたのでファイナルオドロキーが倒されてからはエピローグまで出番0。エピローグでも気の利いたフォローはなし。
クレしんらしいギャグもこなせる悪役で悪くはなかったのでもったいない気はしますが、この映画にとってはこれでいいんです。誰が見てもこいつ悪いやつと分からせる必要があるので、悲しき過去…は邪魔ですらあります。
狂う経緯こそ描かれていますが、あの破壊や誘拐の先にある目的、何がしたかったのかはイマイチわからず、本当に腹いせに暴れただけの可能性すらあるんですが、この映画ではそれでいいんです。大切なのは「こいつのせいで恐竜が暴れている」と観客に知らせることであってその目的ではありません。
「そこ深く掘ってればもうちょっと凝った話にできたのでは?」という誘惑を全て断ち切って分かりやすさに全振りした。そういう潔さの映画です。
親子関係がテーマの悪役がやたらガチャ要素みたいなので戦ってくるのなんか嫌だな

バブルの過去に関してはパンフでフォローしたり、ナナの攻撃性みたいな押さえるべき伏線はうまくギャグも取り入れつつ押さえることができていたので、この映画は決して「スタッフの実力不足のために色々不足している」のではなく、本当に「きちんと準備はしてある上で、分かりやすさのために最低限のところ以外あえて捨てている」なんだと思います。
それをどう受け取るかで今作の評価は変わってくるでしょう

ただどうしても許せない点が2つだけ、①小動物を雑に殺すことで涙を誘う手法と、②しんのすけに「ズルいゾ!」をシリアスなセリフとして言わせてしまったことです。

①は個人的には本当にこれだけで大減点になりうる致命的な点です。「こいつ凶暴だから人間に飼える生き物じゃないよ」はいい感じにギャグも交えつつ描写できていました。(しんのすけに切り傷ひとつできた時とひろしがぶん投げられて怪我した時でシリアス度全然違うな?)それだけに飼うのも大変、元々自然の生き物じゃないので野に放つのもダメ。どうしよう?という問題はありましたが、それで殺しちゃダメでしょう!具体的な解決法を提示できなかったという逃げでしかありません。
いや死ぬこと自体はいいんですよ。よくないけど
ナナを殺すことにストーリー上の必要性が見当たらない。ボスとの戦いの末でもなければ街を守ってですらない、突然降ってきた瓦礫に潰されて死亡って…一応しんのすけを守って…という体は取っていますが絵面的にもサイズ感的にもかなり無理やり。
ボス戦後に突然…という点ではアッパレ戦国っぽいといえばぽいのですが…歴史の改竄を防ぐため死ぬ必要があったあちらに比べるとあまりにも「その方が泣けるから」という理由が浮かんでしまう死に方で…
僕らの友情は野生の凶暴性くらい超えられるよ!(根拠なし)でビリーくんと暮らすみたいなオチを避けたのでしょうか?あの夏休みの日々を過ごした上でしんのすけに怪我をさせてしまっているので、それだと説得力が…になるのはわかるんですが…そこの描写をせずに殺してしまったら結局「ナナは人間と一緒に暮らせる生き物ではなかった」ってことになりませんか?人間の手で作り出された生命なのも相まってかなりグロテスクなオチとなってしまっている気がします…
あの瓦礫は普段ならひろしやみさえがオラオラオラオラ!言いながらギャグ顔で持ち上げるくらいのものだと思うのですが…

②は特大の解釈違い。オトナ帝国のクライマックスと同じセリフなのは偶然ではないのでしょうが、それにしてはあまりにもオトナ帝国のそれと真逆すぎる。
しんのすけが飛び降り自殺をバンジージャンプと勘違いして放った、未来を生きる子どもの無邪気なセリフとしての「ズルいゾ!」だからこそケンチャコに刺さったのだと思っていたのですが、今作ではしんのすけが大人へ向けたなんか気の利いた説教をするためのセリフとして使用。オマージュとしてはあまりにも悪趣味ではないでしょうか。

ファンサービス要素としては売間久里代や紅さそり隊といった準レギュラーが劇場でそれなりの出番が与えられていたりと嬉しい反面、わざわざアンジェラという名前をヒヅメの青梅やTVシリーズの小梅と被らせたりしておいて何も無い事などは気になりました。まあタマタマとスパイでレモンが被ったみたいな話か

子どもにはウケが良いけど大人は寒く感じてしまう演出の代表といえば突然のミュージカル化ですが、そこは選曲をああすることでいい感じに大人も笑えるシーンにできていたと思います。
そういった「大人向けと子ども向けのバランス調整」が全体的にはできておらず、夏休み子供向け映画としては正解、毎年恒例の大人も楽しめる映画クレヨンしんちゃんシリーズとしてはう〜ん…という感じでしょうか。

酢乙女財閥の力でようやく手に入るようなチケットをミッチーヨシりんが普通に手に入れてるのすごくないですか?
夏木りん

夏木りん