ベルベー

シビル・ウォー アメリカ最後の日のベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

アレックス・ガーランドが「今のアメリカ人はこんくらいのノリで殺し合い始めそうだよな、なんで内戦起きたかのヒントくらい描いてるけどお前らそれ理解できないだろ?」とイギリス人ムーブ全開で撮った映画。実際大多数のアメリカ人が良くわからないままドンパチすごそう!で観に行った結果全米2週連続1位というところまで含めて完成する作品。「ジョーカー2」は大コケすることで完成してるし、アメリカ大丈夫かな。

情報見た時は、え、アレックス・ガーランドがランキング1位!?あのアレックス・ガーランドが?と驚いたけど実際観てみたらいつも通りガーランドしていた。脚本作品含めて基本当たりの監督なので、今回も高品質だと思ったけど逆に言えば今回が特段凄いとも思わなかった。ジェシー・プレモンスが急遽代役で登板してなかったらここまで話題にならなかったのでは。急遽登板したジェシー・プレモンスのせいで滅茶苦茶ショッキングな場面が出来上がっちゃったけど。

そもそもガーランドの脚本家デビュー作はゾンビ映画の「28日後...」で、そこで描かれた地獄絵図は(他の多くのゾンビ映画と同じく)人種や貧富の差による人間同士の対立・暴動のメタファーで、あの時は隠喩だったのを直喩にしました感のある映画。乗り捨てられた車の残骸が広がったり、無惨な死体の山だったり、本作はゾンビ映画と共通するルックを携えているが、それはゾンビが戦争や内乱と密接な関係を持っているからである。「新感染」なんか分かりやすいけど。

でも意外と主題はジャーナリズムだったりする。悲惨な現実を伝えることに意義はある。あるが、積極的に地獄に足を踏み入れて、死にゆく人々を写真に収めるというのは如何なる行為なのか。そこに興奮を覚える自分はいないと言い切れるのか…という恐怖と自問自答が感じられる映画だった。簡単に肯定or否定するわけではなく、問いかける姿勢には好感を持てる。同日に観た「あんのこと」が記者を登場させておきながら、どこか他人事のような視点で描いておりモヤモヤしたので尚更。勿論、映画というメディアもジャーナリズムのひとつなのだから。

そのあたり、キルスティン・ダンストとケイリー・スピーニーが素晴らしい演技をしているので非常に印象に残る。あと無茶苦茶怖いジェシー・プレモンスとその凶行を目の当たりにしてパニックに陥るヴァグネル・モウラの演技がちょっと真に迫りすぎていてビビったけど、演技ではなくガチでパニック状態に陥っちゃったっぽい。

そりゃそうだと納得してしまうジェシー・プレモンスの怪演…怪演というか…。台詞も挙動も、なんならそれを映すカメラだって「ここヤバい場面ですよ!」というこれみよがしな強調はしていないのに、なんであんなに怖いのか。5分くらいしか出番ないけど、それ以上はこちらが耐えられない。

その恐怖の背景には、「こういうヤツは現実にもいるだろう」というリアリティがある。実際にあのような内戦が起きたら、あんなヤツと遭遇してしまったら、日本人はあんな風に殺されるのだろうという嫌すぎるリアリティ。一方で、あんな風に他者を殺す日本人も一定数いるだろうという最悪のリアリティ。明日は選挙。どうなるでしょうか。
ベルベー

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