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リアル・ペイン〜心の旅〜のひでGのレビュー・感想・評価

リアル・ペイン〜心の旅〜(2024年製作の映画)
4.2
ユダヤ人の従兄弟同士が祖母の故郷であるポーランドへのツアー旅行に参加するという小さな出来事を90分にまとめた小ぢんまりとした作品に見えるが、中身はとてもしっかりと実が詰まっている。
店舗は小さく、郊外に位置してるけど、味がいい、落ち着いた食堂みたいな映画だ。

その実の部分について。
タイトル通り「Pain」→「痛み」、そう、様々な痛みについての映画だと受け止めた。
デヴィドとベンジーが参加するポーランドツアー、
それも景勝地を回る旅ではなく、ポーランドという国の「痛み」を感じる旅。

人類史上、類を見ない大きな大きな痛み、
それの表し方は人それぞれだ。
確かに、ツアーガイド(彼のキャラクターもとても良い!)の数値を入れての説明に対して、ベンジーが食ってかかるシーン。
そんなベンジーだか、その前には、兵士のモニュメントの前で戯けて、みんなを煽っていた。

確かに、我々は数値など客観化することでそこにあるであろう個々の痛みをまとめて処理してしまいがちである。
他の人以上に感受性が強く、収容場跡地に行った後も最もショックを受けていたベンジー。

彼自身のその感受性は自身でもコントロールできず、時に暴走してしまう。
この旅が個人旅行ではなくツアーというところが何とも上手いなと思う。

つまり、ベンジーの激しさ、「痛み」の表し方、その歪な表現を全く無視することができず、少なからずその影響を数日間受けてしまう同行者たち、
彼らもまた、それぞれの「痛み」を抱えながらこの旅に参加しているのだが、正直、ベンジーの「痛み」への反応に付き合えるのは、あの日数までだろう。
彼らもまたそれぞれの「痛み」を抱えながら、このツアーに参加している。
それらは、普遍的でもあり、同時に個人的なってものでもある。その表し方、受け取り方もそれぞれ違う。

デビッドとベンジーがツアーから離れてまた2人だけで旅を続けるという設定もまた上手い。
2人が大好きだった祖母の生家で表した「痛み」の表現、それは少なくともあのツアーでは共有できたのだが、一歩世の中(自分とは違う社会)に出た時には、迷惑な行為にしかならない。

ツアーなら限られた期間だけの関係だが、さらに(ベンジーと)長く付き合わなくてはならないのが旅を共にするデヴィドだ。

この旅で終始、ベンジーによって振り回されるデヴィド。観客は温厚なデヴィドがいつ爆発するか、ハラハラしていて観ていたが、同時にデヴィドはベンジーのコミュニケーション能力、すぐに他人の心に入り込み壁を壊していく様を羨望の目で見つめている。

2人の従兄弟という関係もまた意味が深い。これが兄弟だったら、お互いがもっと感情的になっていくだろう。
親しいし、昔から知っていて、共通の思い出もたくさんあるけど、いつも会ったり繋がりを保たなくちゃならない関係ではない従兄弟同士。

ベンジーの「痛み」を誰よりも理解している従兄弟のデヴィドであり、この旅でさらにそれを深いものにした。
しかし、旅が終われば、最愛の家族のもとに戻れば、デヴィドへの思いや共感も薄くなっていくのは仕方のないことだ。

ベンジーの「痛み」を最後に見つめているのは、ツアー客でも、従兄弟のデヴィドでもなく、私たち観客なんだ、という
何とも切なく、哀しいエンディングショットであった。

デヴィド役のキーラン・カルキン、本当に見事です!ぜひ、オスカーを彼の手に!
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