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バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト デジタルリマスター版のarchのレビュー・感想・評価

4.4
大傑作だった。
ドラッグ漬け、ギャンブル狂い、職権乱用、性犯罪者な警官が、どうしようもない人生を走り切る。
その自己中心的で自己憐憫的な醜態が、まるで観客からの評価を厭わない、共感ベースで描かれていない人物描写になっていて、昨今では著しく減ってしまったこの感触に、強く揺さぶられた。

殺人事件を目の前にしても頭の中に野球賭博のことだけ。挙句には同僚にブラフをかけて失敗する始末で、救いようがない。彼の悪性は彼元来の性質で他責な要素は一切なく、故に好きになれない…のだが、どこか憎みきれない。ドラッグストアに溺れて嗚咽を漏らして地面に這い蹲る姿に同情してしまうからだろうか。
ただ一点だけ言及しておきたいが、職権乱用して性犯罪に至る描写だけは度し難く、一線超えていて笑い難い。しかしそのアウトよりのアウトであるが故に「悪徳警官」描写の妥協のなさに関心してしまったのも事実。そう思えるのはどこか他人事的な処理でしてる自分のポジショントークな気もするが…
ともかく完全に悪人だが憎めないこの男の醜態を、延々と見せられていく。
その憎めない度がMAXに到達し、その自己憐憫から来る嘆きが切実に響くのは教会での場面。ドラッグのせいでイエス・キリストを幻視して、こう訴える。「お前は一体これまでどこにいたんだ」「どうしようもないオレに挽回のチャンスを…(意訳)」。その際、これまで見たことないようなみっともなさでうぉんうぉん泣くのだから、呆気にとられてしまう。
そこには神の不在というテーマと、贖罪のテーマが立ち顕れるのだ。このテーマはそれこそスコセッシ的なテーマであり、この時期のハーヴェイのテーマなのだろう。
面白いのはその嘆きの先に、救いの手かのように犯人発見の活路が見え、遂に犯人に辿り着くということ。偶然だが彼は贖罪の機会を手にするのだ。


しかしその最後は、街の輩からの復讐によって、命を落とすことで完結する。「死んだら全部許される」とは思わないが、どこか許してしまいそうになるこの映画の倫理がここに表れていると思う。
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