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ANORA アノーラのhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

ANORA アノーラ(2024年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

米国の北東部に位置する大都市、ニューヨーク。
ブルックリンにあるロシア系アメリカ人が暮らす地区、ブライトンビーチ。
一軒屋で姉と暮らすアノーラは、ストリップで生計を立てる23才の女性。
いつものようにナイトクラブで働いていると上司から、
ロシアから遊びに来ている若い男性を紹介される。
名前はイワン・ザハロフ。21才。裕福なオリガルヒ(財閥)の息子だった。

監督・脚本は、ショーン・ベイカー。
2024年に公開されたドラメディ映画です。
※ネタに触れながら感想を書いています。⚠️

【主な登場人物】🗽🪆
[アノーラ(アニ)]主人公。
[アレックス]イワンの友達。
[イーゴリ]トロスの子分。
[イワン(ワーニャ)]彼。
[ガリーナ]イワンの母。
[ガルニク]トロスの弟。
[クリスタル]トムの彼女。
[ジミー]オーナー。
[ダーシャ]イワンの友達。
[トム]キャンディーショップ。
[トロス]イワンのお目付け役。
[ニコライ]イワンの父。
[マイケル・シャルノフ]弁護士。
[ルル]親友。

【概要】🏡🎮
カンヌ国際映画祭の最高賞、パルム・ドールを受賞。
アカデミー賞の作品賞にノミネートされています。
配給会社は『パラサイト 半地下の家族』のネオン。

ベイカー監督は、1971年生まれ。ニュージャージー州出身の男性。
母親が教師で、父親が弁理士。
2000年に長編デビューして、本作が8作目。コメディとドラマが半々だったけど、これからはドラメディに特化しそうな雰囲気。

過去作で有名なのはA24の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
前作『レッド・ロケット』では予算集め(110万ドル)に苦労する。だが、今回は600万ドルを集め、自身でも最高収益の3400万ドルを記録した。

不倫や麻薬などの、社会でのタブーを扱ったエクスプロイテーション(搾取)映画の専門家。
扱っている題材と対照的に、まじめな性格で、性道徳の観点から評価が高い。
快楽を満たすほどに、重くなってゆく罪悪感。
喪黒福造が出てこない『笑ゥせぇるすまん』のような作風。

【感想】🛬🎰
女優がストリップ。
お互いにぎこちなくてドキュメンタリーのよう。
初々しい女優を脱がすいやらしさ、で監督の趣味全開。
自宅訪問AVのようでスクリーンに映える。

お相手の男性を21才の初々しい青年に。若い頃に戻りたい中年から、若い頃に実際に戻ってしまう映画マジック。
監督の演技指導だろう、最高に誇張した童貞っぽい演技にしてある。
これでもうロリコンとののしられなくてすむし、俳優に自分を重ね合わせて現実に引き戻されなくてすむ。
一歩いっぽ堅実に趣味に近づけてゆく。

……その分、関係性がはじまった瞬間に物語が結末まで分かってしまう。
まあ、分かったらわかったで、序盤からハラハラできるからいいのか。

💒バカップル。
金持ちの息子を利用して贅を極める。
旅先でしか味わえない特別な体験、とかではなく、
高校生男子が考える快楽が詰め込んである。
かかっている金のわりに、
「これ自宅と近所でよくね?」
に、庶民性が透けていて微笑ましい。

イワンに合わせてアホな脚本にしてあるのか。
セックスしすぎて監督の脳みそが溶けて素なのかは謎。
それでいて、ちゃんと彼女への気遣い。愛情と誠実さを無くさない範囲に留まっている。
恋愛ものとして成立している辺りに、人気の所以がうかがえる。

🚪崩壊。
ヒステリー+倍返し。
毎回これ。
この2つが組み合わさると絶対折れないので、謝り得。
怒らせないのが得策だけど、身内に厳しいので質が悪い。
劇中では監督の分身しか出てこないから終わりがない。
頭がいたい。

🤬世界クラスの切れ芸。
欠点も突き抜ければ金を稼げる。
怒鳴りすぎて喉が枯れると思うけど、どうやって収録したんだ。
発声で鍛えている、はあるだろうが。

ドタバタ珍道中が長すぎて時間の感覚が狂っているが、
こんな日常的なトラブルで映画を撮ろうと思った時代錯誤が優れている。
(やっぱり発想が低予算の日本映画に近い)

【映画を振り返って】🌨️🚗
主演でアノーラ役のマイキー・マディソン(25才)がエロティックで絶妙。
『スクリーム』(2022年)のアンバー・フリーマン(黒髪ロン毛)
接客している時は溌剌として一部の隙もないが、オフモードだと生活に疲れたお婆さんのような老け顔に。
(岡村さんを思い出した)
バッサバサしたつけまつ毛もリアルでアメリカを感じられる。

監督が乗り移ったかのように台詞とまったく違和感がない演技は大したもの。
まさかスクリーム以外で叫びまくって、大出世するなんて思いもしなかった。
けど、監督はどうやって精神年齢や趣味を20代まで戻して演出したのだろう。
……まあ、いいか。デリケートで不快な感じはしないので、観客のお爺ちゃんたちも若返るだろう。

美女と過ごす時間。
狭い心、命令、悪意。
つまらない人間との関係で溜まったストレスを浄化してくれる最高の存在。
監督が「青春と恋愛」にこだわりつづける理由が少しわかった気がした。
(川端康成か)

😠切れキャラ。
真面目な話をして申し訳ないけど、
切れないように気を使えばいいので、わたしは楽。
苛めとか自己中と違って安定するので付き合いやすい。
付き合うほど接し方も上達するし。
敏感なだけで根はいい人なので。
(まあ、どんぐりの背比べだけどね)

💍ポスター詐欺。
どうしてこれがアカデミー賞の作品賞にノミネート? と不信に思うが、
途中から別の映画に。
影の主人公として、冷静な時の監督の分身が登場している。
性風俗産業で働いて苦労している人たちに寄り添い、救済したい監督の思いがそのまま。
別に褒められたものじゃないけど。
嘘のない誠実さが受けたのだろう、
一貫したものがあるので説得力はあった。

今後は予算の心配もしなくてすむだろうし、
ぽっと出の若造たちと違って、娯楽スタイルが確立されているので良作を量産してくれるだろう。

さて、50代で切れ散らかす天然記念物と向かい合って疲れたから、
綺麗な人でも眺めてデトックスしよう、っと。

※次回は3月17日(月曜日)から投稿再開予定です。
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