烏丸メヰ

ザ・タワーの烏丸メヰのレビュー・感想・評価

ザ・タワー(2022年製作の映画)
1.3
一棟のマンションが突如、外へ出たものは消えてしまう謎の闇に覆われた。
ネットも電波も無い極限状態の中で、当たり前に老人は弱者となり子供達は略奪を常とし、冷蔵庫の中身は財産となり、ペットは食糧となる。
暴力、思想、人種、属性にしがみつき、人々は争う。


伝説的な『ミスト』、マンション住民が国家と化す『コンクリート・ユートピア』や、外に出られなくなることでの人間の変化を描いた『ピンク・クラウド』が、いかに人間描写や脚本や画にエンタメ性があったかを思い知る。

よーいドンで始まった時点の人種派閥を、転機も見せ場もなくそのまま延々煮詰められていく性悪説の煮凝り。
“マンションから出たものを消してしまう”
という謎の闇を掘り下げないのはいいとして、それならそのトンデモ設定に勝って見せきるだけのパワーを「閉じ込められた人々」で描いて欲しかったところを、額面通りの人種別派閥がただただ悪化していくだけであり、起きる事に必然性しか無い上、観ていて予想通りの事が起きた事への感情の動き(辛さ、悲しさ等)が感じられなかった。
「そうなるわな」
で全てが進み、終わる。
その割にこの感じなら最も起こりうる(し起こっているのだろう)性的搾取や性暴行をほぼ徹底して描かないあたりに、作り手が描きたかったのが「人間の闇」でなくあくまで「人種問題の社会寓話」だったのが透けて見える。

舞台・画面としても、最初から暗く汚いマンション内が更に暗く汚くなっていくだけであり変化を追っていく目の楽しさも無い。薄汚く疲弊していく人々のリアルさはあるが、ストーリーに魅力がなくそれも光っていない感じ。
内容とポスターを見た時点ではタロットの“破綻・災難・誤解”を象徴するザ・タワーに絡めてるのかな?とか予想していたが、多分そんな回りくどいウイットは無いと思われる。

つらつらと嫌な事を起こしていきそのまま終わり、
「っていう、ね。」
みたいな監督の“社会問題を一歩引いて見てますドヤ”だけが鼻につく『終わらない青』や『子宮に沈める』あたりの自称社会派邦画に、私はきわめて近い印象を受けた。

特定描写がトラウマと結びつき鑑賞困難な個人に向けてでなく、不特定多数に対して自分のつまらなかっただけの映画を「観なくていい」と言う人間のセンスと言葉選びを私は嫌いだし絶対しないけれど、本作に関しては性悪説で生きてきた私自身でさえ魅力が分からない上「これが刺さる人」「こんな人にオススメ!」が一切分からない。

まあ、劇中にはアジア人が登場しなかったが、人種と差別で派閥づくりをするあのマンションにアジア人の単身性的マイノリティの私がいたら初日に殺されて終わりだろうな、というのが唯一の感想か。
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