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旅芸人の記録のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

旅芸人の記録(1975年製作の映画)
4.7
美しい映像に惹かれて観るようになったアンゲロプロス作品ですが、これは現代のギリシャ悲劇を描いた大作であり、いちばん難解でした。ギリシャの近現代史をおさらいしてから、小国ギリシャの辿った悲劇を心構えをもって観るべきでした。三回観て、ようやくレビューする気になりました。

この作品では、1939年から1952年の間の混乱の悲劇が描かれています。実際にはこの悲劇があと20年続きます。本作が製作された(1975年の)数年前に自由を手にしたギリシャ。本作はその自由のために亡くなった多数の無名の戦士たちの墓碑銘と短い人生を描いたものです。

ある旅芸人の一族の弟が(主役は長女)人民解放軍に入り、独立の自由を掴むために戦い(常に戦う相手国が異なりました)、捕まり、最後は死刑になる。残された一族は、人生の幕を降ろした弟を葬る際に、舞台以外でも英雄として生きてきた弟に最大の拍手を送ります。

ラストが冒頭の1939年に戻っているのは、次の20年に戦うことになる妹の小さな息子が次の戦士になるからです。


30年続いた内戦は大国の思惑からでした。アンゲロプロスが、どちらかというと、当時は反ファシズム、反王制を掲げてギリシャを後押ししたロシア側に近い考えだったように感じます。これは「アレクサンダー大王」でも感じたこと。また、「アレクサンダー大王」で、山賊たちがギリシャ独立に大いに活躍したことは知っていましたが、本作でも山から降りた人民解放ゲリラの馬族たちが敗北し、王制を推すイギリスから武装解除させられていました。イギリスへの静かな恨みもまた感じました。

他作品を単独で観ても、アンゲロプロスの歴史観の全体像が見えてこなかったのですが、本作は明らかに軸となる作品で、他作品を再度確認したくなりました。どれも長いので実現するかはわかりませんが…


コメント欄に簡単なギリシャの近現代史の概略を書きました。
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