ベルベー

パレードのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

パレード(2024年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

みんな死んでしまっていたのかと思いきや、1人だけ息を吹き返してこの世に戻ってこれるオチ、すっごいどこかで観た気がするんだけど、なんだっけ…「天国の本屋〜恋火〜」だっけ。ベッキーが出てた舞台もそんなんだった気がする。でももっと似てる作品あった気がするんだよな、なんだっけか…。

まあよくある題材ではある。パッと思いつく限りでも「ワンダフルライフ」「ツナグ」「想いのこし」、洋画でも「愛が微笑む時」とか。そのよくある題材を使って何を描きたいのかが要なんだけど、多分企画した時点と完成品では大きく違ってますよね。その理由は勿論、本作の企画者にして藤井監督の盟友・河村プロデューサーの逝去にある。

多分元々、もっと震災にフォーカスした内容だったのでしょう。震災で亡くなった人達の想いをどうやって描くか。それが、河村プロデューサーに捧げる内容に大きく変化した。だから震災で亡くなった長澤まさみが主役にも関わらず、物語の大部分を占めるのは映画プロデューサーだったリリー・フランキーのエピソードだ。完成した「パレード」という映画は、極めて私小説的な内容と言っていい。

震災をちゃんと描いたらどうだったんだろう。多分、完成系の方が藤井監督らしさが出ているだろうなと思った。というのも、河村プロデューサーは藤井監督に社会派映画をよくやらせていたし、本人もその志向があったんだろうけど、どうにもそっちが得意な監督とは思えなかったからだ。

今回の登場人物の設定を見ると今までの藤井監督フィルモグラフィーの集大成みたいになっていて、長澤まさみの職業は記者ということで「新聞記者」だし、病で亡くなった坂口健太郎は「余命10年」。横浜流星のキャラは言わずもがな「ヤクザと家族」。

そんな具合に各キャラクターが各ジャンルを表現しているので、キャラごとのドラマの完成度で藤井監督の向き不向きが見えてくる。そして如実に表れていたと思う。

(途中で方向性が変わったにせよ)主役のはずの長澤まさみのエピソードは一番中途半端。そもそも東北ロケまでして、描いているのは明らかにあの震災なのにタイムラグなくLINEというツールを出すとか、そういう詰めの甘さがどうしても気になるので、やっぱり藤井監督に社会派は求めたくない。やるならちゃんとやって欲しいから。同じ北村有起哉出演作で「浅田家!」という震災に真摯に向き合った映画があるので余計に。

リリー・フランキーのエピソード…というか、大枠のファンタジー設定を使ったドラマは、微笑ましいけど類似作品に秀でる個性があるかというと…って感じ。「宇宙でいちばんあかるい屋根」の鑑賞後感と凄く近かった。ヤクザの哀愁とかは向いてると思う。自分勝手な憐憫だなあとは思うけど…「ヤクザと家族」と同じ感想だけど、「ヤクザと家族」凝縮版みたいな話だからな横浜流星のエピソード笑。

で、一番得意なのは青春の闇を描くことなんじゃないかなあと思った次第。森七菜の背景が一番迫力を持って描けていたもん。勿論、このパートで圧倒的な存在感を見せた髙石あかりの力が大きいけど、カメラワークや音楽含めた演出が最も噛み合っていたのは森七菜のパートだと思う。ちなみに藤井監督の作品で一番好きなのは「青の帰り道」です。

事程左様に得手不得手の差が顕著な監督に対し、全編にわたって凄まじい手腕を見せていたのが撮影の今村圭佑と音楽の野田洋次郎。いや感動したよ撮影のスケールの壮大さに。自然光を捉えるのが本当に上手い。野田洋次郎は完全に映画音楽のやり方を掴んでるって感じ。

スタッフに盟友が集結したと思えば、キャストも藤井道人オールスター。毎度お馴染み横浜流星と田中哲司。寺島しのぶや舘ひろしまで顔を出してる。みんな綾野剛がどこにいるか探してみよう。多分すぐ見つかる笑。

あとは長澤まさみの息子が成長した姿を奥平大兼が演じるというのも中々ニクい。あの映画河村プロデューサー作品だったもんね。恩人への餞だと考えると、中々心に来るものがある映画だったのではないでしょうか。
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