リストラ後難航する就職活動に自尊心は摩耗、焦りや不安に苛まれた現状を打破するために最悪な計画を思いついてしまった主人公。その計画とは雇用枠を先に奪われてしまう前に自身と同水準のスキル経歴を保有するライバル達を抹殺してしまおうという荒唐無稽なものであった、というお話。
連続殺人を映した本作はスラッシャー枠よりもブラックユーモア色の強い社会派非喜劇スリラーという印象が強いものでした。妻と子2人を養う主人公は務めていた製紙会社から突然の解雇を言い渡され先述の計画による連続殺人に手を染めてしまうわけですが、その内容は練りが甘く毎度ピンチに陥り、しかしとっさの機転と幸運すぎる奇跡によって疑いをかわしていくことで首の皮一枚で手を汚していきます。このガバい殺人計画は主人公がどこで殺すのかという、ホームセンターやテーラーの試着室といった日常生活で馴染みのある光景の死角に緊張感を持たせており見応えのあるシーンを作り出しています。試着室内、合わせ鏡の空間での会話劇がイイ!
本作はシリアスよりユーモアの方が濃度が高い印象から「連続殺人で怖がらせる系ではないのかな」と思わされるわけです。そうなると何の要素が強く印象に残るかというと社会的問題、失業問題でした。主人公は殺人計画を遂行していく中で様々な人と邂逅します。そこでは製紙業界だけでなく多様な業界が不況の煽りで困窮している様子が映されます。面白おかしい(?)殺人計画をメインに据え興味を引き付けつつ端々で展開される不況の皺寄せによる悲壮感を観客に暗に伝えているように感じます。主人公の動機を揺さぶるとあるターゲットの姿は社会に苦しめられる人の一つのアプローチの姿として主人公と対照的で興味深いものです。殺人計画と並行して発生するサブイベントのような家庭トラブルの展開は主人公の父性を際立てており、「人はいつ悪事に手を染めるか」というポイントに新しい着眼点を与えられます。社会問題・家庭・個人の普遍的問題を非日常な要素の殺人計画を絡めて映し出していて面白かったです。
主人公が終始執着している会社名がアルカディア(楽園)というのはニクいセンスですね。