まりりんクイン

正義の行方のまりりんクインのレビュー・感想・評価

正義の行方(2024年製作の映画)
3.9
1992年に福岡県飯塚市で発生した女子小学生2名の誘拐殺人事件、通称「飯塚事件」に纏わるドキュメンタリー。

事件発生後の捜査→犯人逮捕→死刑判決→死刑執行→死刑執行後に犯人の奥様からなされた再審要求→再審の棄却→棄却を受けて始まった西日本新聞による調査報道陣
事件から30年に渡る経緯を事件関係者、警察、弁護士、報道、それぞれの立場で関わった人達にインタビューしていく。

同時期に発生した「足利事件」を強く連想する。「DNA型鑑定」の捜査導入に伴う警察内部の政治的な動きによって、本来なら証拠不十分だったにも関わらず、半ば強制逮捕されされてしまった容疑者と、その結果を鵜呑みにして警察の捜査を後押しする様な報道で世間を煽った西日本新聞。足利事件どの大きな違いは、最後まで容疑を否認していた容疑者に死刑判決が出され、実際に刑が執行されてしまっている所。
その間、足利事件の方はDNA型鑑定の不正確さを理由に、死刑執行の一年前に再審が認めらて、容疑者は無罪を勝ち取っている。
飯塚事件では「DNA型鑑定の他にも車の目撃情報など、細かい証拠がいくつもあったため、それだけでは覆らない」という理由で再審が棄却されている。

無実かも知れない人間を逮捕し、犯人であるかの様に報道し、死刑執行してしまったのでは無いか。

容疑者である久間さんを逮捕した福岡警察の人達の「自分達は絶対に正しい事をした」という怖いくらいの揺るぎない自信と、「当時偏向報道をしてしまったかも知れない」という疑念に、明らかに悔やんでいる様子を見せる西日本新聞の担当記者達。そして、検察の性急な対応と警察の捜査に初めから疑念を抱き、30年間「死刑判決後の再審」という超難関の戦いに挑み続けている弁護士たち。
2021年には弁護側から二度目の再審要求がなされている。

当時事件報道を現場で担当した記者たちが、十数年後に久間さんの死刑再審の棄却を受けて「もう一度自分達で一から調査して報道しよう」と決意し、一年以上に渡る連載記事を始めるのが本当にグッと来る。

「"記者はペンを持ったおまわりさん"になっては行けないという教訓が、報道関係者の中にはあります。当時の私はペンを持ったおまわりさんでした。私の報道が間違っていた事を、部下達の調査で明らかにして裁いて欲しい。」と語る記者さんがとても印象的。

どの立場の人にも肩入れせず、フラットな視線で見た人に思考を促す滅茶苦茶良いドキュメンタリーでした。
調査物としてもかなり面白い。
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