【「こいつを殺す」――1人の転売屋が生んだ無数の殺意はどこに向かうのか】
黒沢清監督最新作。特報が解禁された時から、設定、世界観、主演、全てに期待してしまい、我慢できず公開初日に見に行ってしまった。個人的には(今のところ)2024年の邦画でいちばん面白かった。
「ものを安く仕入れて高く売る」、現実世界でも忌み嫌われる"転売ヤー"を題材にした本作。最近では法律でも転売を重く取り締まる法律もできてるけど、本作では彼らが嫌われる理由も、いつか現実で起こりえてしまうような末路も描いていた印象。
とにかく登場人物全員がぶっ飛んでる。敵も見方も関係ない。人が丹精込めて作ったものを転売することにもなんのためらいのない転売屋の主人公・吉井も、彼に関わる人も、彼に憎しみを抱く人も、みんなネジがひとつ外れてる。笑っているようで目の奥が笑ってない、隣にいなそうでどこかで見たことのあるような人々が不気味で、全員の動向がずっと気になってしまった。
前半はゆったりと不気味に物語がすすんでいったのに、岡山天音の登場から一気にギアがかかって、めちゃくちゃ面白かった。先も全く読めなかったし、黒沢監督ならではの余韻が残るラストにも大満足。
個人的には窪田正孝がよかった。感情の起伏を一切に見せずに、目の奥は笑っていない表情で言葉を発する。ちょっとサイコパスみがあるような、すごく怖かった。
「Cloud」ってタイトルもよくできてるよなぁ。悪意も殺意も憎悪も嫌悪感も、ひとつの行動がきっかけでパッと生まれて、それに対して自分が満足することが起こればパッと消える。そう思うと、自分の何気ない行動に、マイナスな感情を産んでる可能性があるかもしれなくて、恐ろしいよね。本当に。