【無実と救いを求める青年は、なぜ逃げ続けたのか】
主演・横浜流星×監督脚本・藤井道人×主題歌・ヨルシカ。情報解禁された時からずっと期待していて、主演、主題歌が解禁される度にその期待は大きくなっていって、公開からすぐに鑑賞。よかった。個人的に今年の邦画で一番よかったと自信を持って言いたい。
もともと原作小説があって、WOWOWでは亀梨和也主演でドラマ化もしていた本作。小説もドラマもどちらも見ていなかったけど、ドラマで1度制作した作品を映画用の脚本に再構成するって、結構大変なことなんじゃないかと。そう思うと、約2時間でこの満足感にさせてくれた藤井脚本にまずは拍手。
そんな藤井脚本に欠かせない横浜流星。「ヴィレッジ」「パレード」に続く出演ということで、信頼関係はこちらが言うまでもないわけで。藤井作品の主人公って結構闇を抱えているキャラが多いけど、今回は5つの顔を持つ死刑囚と、これまたクセが強め。だからこそ、横浜流星に託したんだろうなぁと、いろんなテレビ番組のトークを見聞きしながら感じてた。そんでもって横浜流星の1人5役の演じ分けも完璧すぎてなんも言えない。
ストーリー内容もゼロ知識だったので、先が全く読めなかった。死刑宣告を受けながらも脱獄した主人公・鏑木慶一が大阪、東京、長野に逃亡を続け、警察に追われながらも徐々に鏑木の真の目的が明らかになっていくというストーリーを繊細に、緻密に構成しているのに、間延びとかはしない。
その中で2時間通して伝わってきたのは「人を信じる」ことの難しさと愛おしさ。脱獄した鏑木と関わった和也、沙耶香、舞の目には"死刑囚としての鏑木慶一"ではなく、"優しい1人の青年である鏑木慶一"が映ったから、世間がなんと言おうと、自分たちは信じたいと思い、この作品の感涙ポイントともなる行動を起こした、そうと思うとグッとくる。
予告で何回も何回も見た沙耶香の「逃げて!」という叫びも、それに対して鏑木が何かを言ったことも、見方がガラッと変わる。予告負けをしていないだけでもすごいのに、それ以上の展開も満足度も作り上げられるのは、改めてすごいことだと思う。
そして、エンドロールで流れるヨルシカの「太陽」。監督、主演それぞれから書下ろしをお願いしたこともあって、めちゃくちゃいい楽曲に仕上がっているし、なにより作品の余韻が残りながら流れる「太陽」は、小説のエピローグのような感覚だった。これも素晴らしい。
珍しく長くなってしまったけど、始まりから最後まで文句のつけようがないので、全力のレビューマックスをあげさせてほしい。「正体」というタイトルからは考えられないほどの、愛に満ちた作品だと思う。