シュローダー

Cloud クラウドのシュローダーのレビュー・感想・評価

Cloud クラウド(2024年製作の映画)
4.8
今年は3本も黒沢清映画が観られるという夢の様な年だったが、その締めに相応しい物が拝めた。ここ最近はアート映画寄りの作品が続いていたから、今作は菅田将暉主演の娯楽大作です! みたいな感じで宣伝されているが、なんて事はない。いつも通りデタラメで訳がわからないが故にサイコーに楽しい黒沢清作品であった。前回の「Chime」もそうだったが、最近の黒沢清は魂を90年代後半から00年代にまでタイムスリップさせているかの様に、原点回帰的な作品が多い。今作も味わいとしては「ドッペルゲンガー」や「リアル」のそれをビンビンに感じさせるものになっているのも、僕はあの頃の清も大好きなので堪らなかったが、一般観客にとっては困惑以外の何物でもないだろう。話としても、転売ヤーである菅田将暉が周りの人間の恨みを買い、最終的にはコルトM1911で撃ち合って人をブッ殺すことになる映画と書けば確かに娯楽性は高いが、この菅田将暉演じる主人公が黒沢清映画の主人公らしく転売した商品が売れるかどうかにしか関心がなく、全く持って人間性が欠片もない空っぽな人間として描かれている。古川琴音に対しての愛情の無さは黒沢清映画のお約束と言える物だったし、買った物が本物か偽物かを考える前に売ってしまうというロジックに宿る非人間性、その果てに菅田将暉が泣くという場面が出てくるが、あそこの「何テメェは一丁前に人間ぶってんだ気持ち悪ぃ」感に、めちゃくちゃ黒沢清みを感じた。他の登場人物も一様に人間として大事な部分が欠け、タガが外れまくったほとんどビョーキの人間ばかり。特に素晴らしかったのは窪田正孝。誰しもの人生に現れる「胡散臭い謎の先輩」レベル100みたいな人を据わらない首とギラついた目をもってスクリーンから飛び出してきそうなリアルさで形にしてみせる。どの登場人物にも安易な共感をさせない作り故に、周りの破綻した人間関係がそのまま集団的狂気と化して菅田将暉にしっぺ返しをしてきても「いいぞ〜 もっとやっちまえ!」という感情しか湧いてこない。後半から黒沢清映画お得意の廃工場での銃撃戦が展開される訳であるが、リメイク版「蛇の道」のsteamで投げ売りされているインディークソTPSみたいなやる気のない銃撃戦と違い、本作の銃撃戦はVシネ時代の空気を纏う変なテンションの銃撃戦なので大変テンションが上がった。水平2連式ショットガンがアスファルトの壁をガンガンぶっ飛ばす描写にフェティッシュを感じる。勿論、半透明の遮蔽物、風に靡くカーテン、観客もろとも登場人物を地獄へ道連れにするスクリーンプロセスによる車やバイクの移動シーン、計算され尽くした長回し撮影などなど、いつもの黒沢清演出も盛りだくさん。「Chime」のソリッドさが恋しくなる時もあるが、今作も今作で最大限に楽しめた。