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めまいのakrutmのレビュー・感想・評価

めまい(1958年製作の映画)
3.8
サンフランシスコを舞台に、高所恐怖症が原因で刑事をやめた男性が、学生時代の友人から誰かが憑依したような行動を取る妻の調査を依頼されたことで巻き込まれる出来事を描いた、アルフレッド・ヒッチコック監督の心理サスペンス映画。フランスの作家ボワロー=ナルスジャックの小説『死者の中から』が原作。ヒッチコックは元々同じ著者の別の小説『悪魔のような女』の映画化を考えていたが、その権利はアンリ=ジョルジュ・クルーゾーに取得されてしまった。

現在では、批評家の間でヒッチコックの最高傑作とされていて、例えば英国映画協会BFIの2022年版 The Greatest Films of All Time では、2位にランクされている。テレビ放映でよくヒッチコック作品を見ていた中高生の頃は、本作はあまり注目されていなかったように思うし、おそらく見ていない。その後、徐々に再評価されるようになり、現在の高評価になったようである。

心理サスペンスとしてはよく出来ていて、特に後半の展開は十分に楽しめる。ドリーズームを用いて高所から下を覗き込んだときに感じるめまいを表現するなどの撮影手法も本作の見どころ。冒頭に出てくる高層ビルの下を見るシーンもよい。一方で、ストーリーがあまり動かない前半は冗長であり、ちょっと飽きが来てしまう。スコティ(ジェームズ・ステュアート)とマデリン(キム・ノヴァク)がこういう関係になる過程も(見終わった後は納得できるけれど)この段階ではちょっと不自然な気がした。ミッジの立ち位置も曖昧。

でも、最も残念だったのは、後半途中くらいで結末がネタバレしてしまう(つまりスコティだけがそのことを知らない)という部分。原作はこうなっていなくて、周囲の人々も反対する中でヒッチコックはこうしたらしいが、一方では、ヒッチコックも迷ってネタバレシーンを削除することにしたが、パラマウントが反対したという話もある。個人的にはやっぱり最後に種明かしとなるほうがいいかなあ。

それから、オブセッション(強迫的なこだわり)、特に恋愛に対するこだわりが本作のテーマであるという批評家もいるが、それはちょっと違う気がする。確かに、映画の終盤におけるスコティがある女性に見せる執着はすごいのだが、これはラストを盛り上げるための演出に過ぎない。本当にオブセッションならば、ラストはそういう展開にならないだろう。あくまでもヒッチコックはサスペンス映画としてしか意図しなかったはずである。
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