こたつむり

めまいのこたつむりのレビュー・感想・評価

めまい(1958年製作の映画)
2.7
有閑マダムの好物である“サスペンス”と“ラヴ突然”を足して二で割った系統の原点。

常々から、ヒッチコック監督の投げる変化球はキレが鋭いなあ、なんて思っていたんですけどね。今回に限って言えば、曲がらない変化球。しかも大暴投。そんな印象でありました。

投球動作…つまり、序盤は極上のサスペンスの雰囲気を醸し出しているんですよ。古い友人からの「妻の様子がおかしいから調べてほしい」という依頼。それを受けて尾行する主人公。そして、判明する彼女の出生の秘密。うん。なかなか面白そうです。

そして、この流れから意外な方向にぐわんと曲がるのが監督の真骨頂。…だから、それを期待していたら…何故だか、球は逸れて恋愛物に向かっていった…と。まあ、そんなわけであります。しかも、その暴投を捕手が取りに行かないんですね。バックネットの前にボールが転がったままなのです。むぅ。

更には極上である序盤も。
監督らしくない詰めの甘さが目立つんです。例えば、尾行をしている場面。都心のような交通量ならばいざ知らず、閑散とした道路だったら車での尾行は難しいはずなんです。真っ当なドライバーならば、常時四方八方に気を配っていますからね。

だから、路地裏で尾行している側とされている側が一緒に駐車するなんて言語道断なんです。もうね。緊張感の欠片もへったくれも無い描写ですよ。そんな緊張感のない尾行シーンを延々と繰り返されても。テンポが鈍重になるだけで、睡魔の襲撃を招くだけだと思うんです。ぐぅ。

そして、主軸である恋愛部分も。
基本的にヒッチコック監督が描く主人公って一癖も二癖もあるんですけど、本作もその例に漏れず、自分勝手な奴なんですね。物語後半は事ある毎に「俺のために」と言いながら色々と無茶を要求するんですが、正直、「知らんがな」と言う気分で満載でした。

まあ、その分、無茶を言われているヒロインの方に感情移入をするように仕向けているんでしょうけど…。ねえ。これ以上、書けないけど、ねえ。結果が“あれ”じゃあねえ。んがぐぐ。

というわけで。
僕の中では厳しい評価になってしまいましたが。
気怠い午後に粒子が粗いアナログテレビで観ると雰囲気が出るような作品ですので、あんまり肩に力を入れず、はふーんという心持ちで臨めば、楽しめると思います。なので、秀逸なオープニングが期待感を高めてきますが…それは罠です。ご注意ください。
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