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かわいそうな象を知っていますかのkarmaのレビュー・感想・評価

3.7
アマプラのおすすめに上がってきていて、たまにはドキュメンタリーもいいかな?と思って視聴。

内容的には動物園(それ自体に、と言うよりも、その存在を許している現状)に対しての痛烈な批判となっている。小学生の教科書に載るほど有名な、WW2末期に行われた上野動物園での象を含む動物達の大量虐殺の話を契機とし、いや今でも動物園の動物達をめぐる状況は本質的には変わっていないんだよ、というふうに話は進み、各地の動物園の動物達の悲惨な現状を紹介している。

ただ、本作はドキュメンタリーとは言え、監督の主張、主観がかなり色濃く出てている。監督が動物達の行動にアテレコをしているのだが、それがほぼ監督の主観で語られるため、かなり偏った編集になっている。個人的にドキュメンタリーにはある程度の中立性が必要だと思っているので、これは少しマイナスポイントだったかも。ただ、主観を完全に排除したドキュメンタリーというのは編集という作業が入り込む以上、あり得ないとも思っているので、まあ、許容範囲かなとも思う。

さて、本作を見ていて思ったのは、人間の文明がいかに非可逆的であるか、という点である。本作での監督の主張はつまるところ動物園などというものはやめてしまって、動物達は野生のまま生かすべきだ、と言うことになると思うのだが、これは全くその通りで、これ以上無いくらいの正論である。が、人間はすでに動物園という娯楽を知ってしまっている。それもかなり深い部分で習慣的に根付いていると言っても良い。例えば子供との外出となった時、動物園は当然のようにトップ10内に入ってくるだろう。それを今更無しに、とはやはり無理な相談になってしまう。ここが文明の非可逆的なところで、原子力やらもそうだが、人類はその存在を知ってしまった以上、それに伴う害悪からは目を背け、便利さのみを享受し、二度と手放さないようにしてしまうのである。現代社会というのは、知らない方が幸せでいられる不都合な真実に満ち満ちているとも言える。

しかし、そんな中にあっても、なお敢えて声を挙げているこの監督のような存在は大変貴重であると思う。変えようが無いから、真実ではあるが不都合だから、と言う理由で見て見ぬふりを続けてしまうのではなく、何とか良い方向へ変えようとする努力はやはり辞めるべきでは無いのだ。実際作品内でも、小さくではあるが、飼育のあり方の改善に成功していた。その様な改善が積み重なり、少しでも動物達が楽に過ごせるようになっていって欲しい!と思わせる熱量が本作からはヒシヒシと伝わってきた。

まあ、編集はかなり恣意的だし、お父さんが休みの日に作ったレベルの手作り感満載なものでは有るけれど、映像を使って何かを主張する意味を改めて考えさせてくれた作品でした。
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