このレビューはネタバレを含みます
乱暴に愛をブン回して勝ち取った
夢の『わたしのおうち』では
愛する夫という柱がなくても
きょうもていねいな暮らしがある
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※原作小説は未読。
楳図かずおの名作漫画『洗礼』では、母の脳を移植された小学生のさくらが、横恋慕した担任教師の男性と幸せな家庭を築くべく、教師の妻に対して強烈な嫌がらせをして家を追い出してしまう。勝ち誇ったさくらの独り言がすごい。
「こんな生活がしたかった!」
「どうかもうこれからは誰も邪魔など
しないでほしい」
「わたしはただふつうに生きたいだけ」
「わたし、きょうから心から優しい人になる」
散々酷いことをしてきたのに、それをまるっと無かったことにして清らかな乙女のように己の幸せを神に祈る姿に心底ゾッとした。それと同じ怖さを『愛に乱暴』の桃子にも感じる。
桃子が事あるごとに眺めている自身の過去のポスト。かつて真守と不倫中だった頃の愚痴や不満をつぶやくアカウントには@妊活がついていた。略奪婚する気満々の計画的一面が見える。
略奪婚を果たし、その醜悪な部分をまるっと無かったことにして、幸せいっぱい無添加でナチュラルな『ていねいな暮らし』をしている桃子が怖い。もしかして彼女なりの禊だったのか?その両極端な行動に鳥肌が立つ。
鳥肌と言えば、不倫相手の家から啖呵きって帰るとき、背後で物音がして振り返るシーン。「もし妊婦が倒れていたら…」助けたくもない相手だが、流産を経験してる桃子は逡巡する。結局確認するために戻ってみるとそこには、何か物を落として唖然としている不倫相手。僕はその床に散らばる割れたものが、果肉の白い未熟のスイカに見えてゾッとした。うう、流産を連想させる恐ろしい画だ(泣)桃子がスイカを抱える姿に臨月の妊婦を連想したからそう見えたのかもしれない…。
ちょっと分からなかったのが、桃子が床下にベビー用品を埋めていたこと。チェーンソーで床板を切らなくては床下には行けないのに、桃子はいつ埋めたんだ??もしかして比喩?と悩んでしまったので原作のあらすじをネットで探してみた。
すると、なんということでしょう!!
原作、バリおもろそうやんけ!!!
原作では、床下に埋まってたものはベビーグッズではなくて、放火犯に関する◯◯。そして桃子が嫁いだ家の醜悪な秘密も明らかに…なんだこれ、読みた過ぎる!
ってことは何かい?映画ではそのごっつおもろそうなポイントをまるっと削っちゃってるってことかい!?もったいない!!
確かに映画では放火犯は宙ぶらりん。火がつけられたゴミは桃子の平穏な暮らしの終わりを表す心象風景となっただけで、結局誰が犯人だったのかは明らかになっていない。そういえば、義母家の物置きに大量にしまい込まれていた家財道具についても言及されていないし、ちょっとモヤモヤするなぁとは思ってた。
うーん、原作を楽しんだ人にはこの映画、物足りなかったろうな…
とはいえ江口のりこの演技は隅々まで素晴らしく、小泉孝太郎の「若い頃はイケメンでそれなりにモテたけど、今はうだつの上がらないダメオッサン」の雰囲気がよく出てる!役者ってすごい。
映画もそれなりに楽しめたけれど、原作の面白さを味わいたくなったので、原作の小説を読んでみることにしよう。