かじドゥンドゥン

天城越えのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

天城越え(1983年製作の映画)
3.4
印刷所を営むオノデラ・ケンゾウのもとを、一人の老刑事が訪れ、40年以上前の事件資料300部の印刷を依頼する。それを見たケンゾウははっとする。

かつて、天城峠で白痴の大男が殺害される事件が起こった。警察は、気性の激しい娼婦ハナが、金銭目的で男を殺害したと断定し、犯行を否定するハナを逮捕した。当時14歳のケンゾウは、母が近所の男と体を重ねる場面を目撃した後、嫌気が差し、下田の実家(鍛冶屋)を飛び出し、修善寺の印刷所で奉公中の兄を頼ろうとしたが、天城峠を越えた直後に不安になり、踵を返して帰宅。そのときにハナと出会い、なおかつハナと大男がなにやらやりとりしているのを目撃したと証言。犯人断定の決め手となった。

すでに解決したはずのこの事件の資料を、わざわざ当時の目撃者であるケンゾウに刷らせた老刑事には、意図があった。老刑事は、自分の捜査に手落ちがあり、犯人はケンゾウであったと確信しており、そのことをケンゾウにほのめかす。15年で時効がきているとはいえ、それは人間が決めた制度に過ぎず、罪自体に時効はないという老刑事の言葉に、ケンゾウは動揺し、過去を回想する。

当時、母に裏切られたと感じ怒ったケンゾウ少年は、天城峠で出会ったハナとしばらく同行するうちに、その美貌、母のような包容力、そして快活で自由奔放な人柄にすっかり魅了された。ところが、そこに大男が通りかかったとき、ハナはケンゾウに一人で先に行くよう指示し、大男と交渉して、林の中で彼に身を売った。その場面を目撃したケンゾウは、自分の理想の女性が汚されるような悲しみ、彼女の娼婦性に対する失望、しかし胸も露わに尻を突き出して喘ぐ美女への欲望など、種々の感情が混濁する中、ハナが去ったあとに大男を短刀で激しく切り付け、殺害したのだった。

肺ガンを患って、手術を受けたケンゾウは、麻酔がかかると、握りしめていたお守りを落とす。看護婦がそれを控え室の老刑事に預ける。刑事がその中を開けると、ケンゾウとハナとの淡い思い出の品、彼女がもっていたマッチの空箱が収められており、刑事は真犯人がやはりケンゾウ少年だったと知る。(夜の天城峠で、ハナはそのマッチを擦った灯りで、ケンゾウの足の怪我を介抱してくれたのだった。)