監督がどこを撮り直したいのかの意図が見えるという鑑賞体験はセルフリメイクならではの良さがある。
前作を知ってるので序盤から柴咲コウが本作の反復性と円環性を担うことになるのは分かりきっていたが、リメイク時にそこを捨象するのか驚いた要素がいくつかある。
例えば、前作で象徴主義的な作品構造を生み出すことになった夜間学校やその生徒の存在は撮り直され、あくまで現実の話として着地しているのは意外だった。柴咲コウは医者であり、普通に勤務している。だからなのか、自身の患者にも自殺幇助するなど前作で見られなかった狂気もはらんでいた。
また、前作に比べて女性の登場人物が多く、家族間の齟齬として説得的な作り方をしていたのは変奏性があって面白かった。
こういったリメイクを通して、前作は鑑賞者が受容する仮説的意図と黒沢清が届けたい意図とであまり一致しておらず、今回は分かりやすく鑑賞できるようにまとめたんだなということがわかる。引きずるという部分で。
ただ、若干ノイズだったのは、「柴咲コウ、お前は医者やなくてカウンセラーの方がフランスでは普通じゃないの?」という話と「カトリック教国の高齢者世代に自殺者の死後について話のは難しくない?」という点はおいおいとなった。
見終わってみて、暴力のカットやテレビ複数台が取り直されてないところを見るとそこは黒澤清も満足していたんだなとニッコリした。