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八犬伝のruublueのネタバレレビュー・内容・結末

八犬伝(2024年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

江戸時代、著名な長編小説とされる南総里見八犬伝を書いた滝川馬琴の作家人生(執筆開始時)48歳〜82歳、終焉までの自身の虚と実を描きながら、同時に八犬伝物語がダイナミックに動き出す映画です。

多くの人々と交流があったとされる馬琴ですが、人生には馬の合う旅の道連れが必要。書き手の滝川馬琴と浮世絵師の葛飾北斎、アーティスト同士の二人の掛け合いに乗せながら、物語は進みます。

実際に彼ら二人は親しい間柄だった様で、それを役所広司と内野聖陽が演じるとどんな化学反応が起きるのかと期待。この二人のやり取りが実に人間臭く、一つの見どころとなっています。

さて「虚と実」とは?
この映画の興味深いテーマです。
元は武家の出であった事を誇りに思う馬琴は、息子の代でもう一度武家に返り咲く事を人生最大の目標としていました。けれど馬琴が「実」と定義する実際の生活は一向にそうはならない。人生そうやすやすと一筋縄では行かないほろ苦さ。現代人も大いに共感する部分なのです。




✂️____ネタ触れ含むかも?カット線_______✂️

この数年、日本映画は戦乱治らぬ世界に向けて映画を通して言える事を発信し始めた様に私には映ります「お陰さまで」「お互い様」「水に流す」「罪を憎んで人を憎まず」「和をもって尊しとする」日本人にとっては聞き慣れたこれらの語句に端を発する考え方や文化をもってすれば多くのことを解決出来る方法が見つかる可能性。たとえ小さなtipsに過ぎないとしても、一つ一つ丁寧に見せる方向に舵を切ったのではないかなと思う事が増えています。(個人の想いです)


決して押し付けるのでは無く、まるで和紙越しの影絵の様な優しさで見せる手法は心温まります。インターネットの普及を下地に今や注目株の日本映画として世界を意識しているのだけれど、決して驕らず有頂天にもならない日本人らしい職人技に磨きを掛ける過程を見ているようで好ましく、愛おしくなる。そんな心に小さな灯が灯る様な映画が好きです。

特に、馬琴が歌舞伎を鑑賞しに行く場面は外国人に向けた日本文化を知って貰うきっかけとして上手いなと感心しました。当代人気作家である馬琴の真骨頂といえる正義感や正統性をひっくり返す作風の、ある作家に出会い心を乱される反面、惹かれる余白もある。江戸時代にあってもトレンドの変遷は絶えず起こっていた事を垣間見るひとつのシーン、それはこの後の江戸文化が更に花開く近未来を予感させる様で面白いパートでした。

✂️______カット線終了________✂️



(気になって、あれこれ調べてみる)
八犬伝で描かれる、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌。八つの玉に込められた謎。今でも十分に通用するキャラクター性の光る物語です。馬琴が後半生を賭けて通算28年間の歳月を持って著され、全106冊、98巻からなる一大エンターテイメント!!“通用する”どころか江戸時代に既に日本独自のファンタジーが始まっていたという懐の深さを伺い知れる映画です。


(里見八犬伝 子供の頃に観た記憶?)
今でも仁、義、礼、、の順番をすぐに思い出せる事に驚きました。南総里見八犬伝を観たのは確か小学校の頃?NHK?人形師の辻村寿三郎氏?記憶が不確かなまま検索🔍、そしてコメント欄に激しく同意でした。
「懐かし過ぎて涙が出る」「玉梓が怨霊が恐ろしかった」「九ちゃんの語りを聞くだけで絢爛の絵面が見える様で」お、仰る通りで。。。🥹(涙目)


さらに記憶を辿ると、物語の最初に登場した八犬士の一人は確か、犬塚信乃(しの)、人形劇なのですが表情には何とも言えない艶があり、子供時代に敷居の高い人形浄瑠璃への誘いに戸惑うものの、毎日楽しみな番組となりました。思えば1814年(文化11年)発刊から160年後、学校から帰った夕方頃、滝川馬琴先生の長編作に毎日出会っていたとは有り難いやら勿体ないやら。。
そしてボスキャラとも言える(玉梓が怨霊)は人形作家の辻村寿三郎氏が務めておられたそうで、他キャラクターにない鬼気迫る様は人形師ならではの渾身の振付けだったことも知りました。知らずにええもん見せて貰ってたorz…….


(独自の発想と企画力 高い評価を受ける日本映画)

最近では、SHOGUN将軍、新海誠アニメ、鬼滅の刃、千と千尋の神隠し・宮崎駿アニメなどなど多くの日本作品が日本文化への入り口を担った結果、日本文化が好意を持って受け止められ、文化や人心を体感する為に外国人が押し寄せる事態となっているのは紛れもない事実です。

日本の伝統の一つとして、歴史上の偉人を掘り起こすには無限の資源を有する国である事を最も嬉しく受け止められるのは映画の水際に最も近い場所に居る【映画ファン】の特権と言ってもいいかも知れません。

八犬伝、この映画は日本の町衆文化(今の時代でも息づいていると感じます)その輪郭を伝える作品ながら、重すぎず軽すぎず絶妙のバランスが嬉しい。ラストシーン、馬琴の心潤す様な笑顔と同じ笑顔で映画館を後にしました。良い映画に巡り会えて本当に良かったと思える一本でした。


(おまけ)
🔸シビル・ウォー
🔸ジョーカー フォリ・ア・ドゥ
同じ10月に観た二本の映画。どちらの映画も軽い心身疲労(笑)その後、一服の清涼剤になった八犬伝でした。二本のレビューは追ってまた🫣✌️
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