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八犬伝のMiYAのレビュー・感想・評価

八犬伝(2024年製作の映画)
4.2
はじめにお断りしますが、私は山田風太郎マニアであり、八犬伝マニアでもあり、以下はニッチな少数派によるコアなレビューとなります。

まず「八犬伝」。その昔、真田広之主演の「里見八犬伝」を見て、その面白さに痺れて、子ども向けのダイジェスト版「八犬伝」をくり返す読むという少年時代を過ごしました。今でも八犬士の名前を誦んじています。

そして、山田風太郎は私が一番好きな作家で、100冊くらいは読んでます。そんな大好きな作家が書いた小説「八犬伝」がつまらないはずはないのですが、贔屓目を抜きしにても、これは彼の著作の中でも指折りの傑作で、こんなに面白い本はないと思えるくらい大好きです(2回読みました)。

そんな二重、三重に思い入れのある小説が映画化されるなんて夢のようです。めったに映画館に行かない私ですが、仕事の代休日にいそいそと観に行って参りました。

「虚」と「実」のパートが交互に描かれ、最後にそれが融合するという見事な構成は原作通り。興味深いのはやはり「実」のパートで、失明した馬琴(役所広司)が、息子の嫁(黒木華)の口述筆記によって「南総里見八犬伝」を完成させたというエピソードは破格です。しかも彼女はほぼ無学だったという。最後まで馬琴を支えたのが、妻でも息子でもなく、血のつながらない義理の娘だったという話は「東京物語」に通じます。家族とは血縁が全てではない、ということ。これは八犬士のストーリーにも通じることで、本作の裏テーマなのかもしれません。

もちろん、馬琴と葛飾北斎(内野聖陽の演技が素晴らしい)が語り手となって、「虚」の「八犬伝」を媒介するという設定も秀逸です。

「虚」のパートでは、余りに長過ぎるオリジナルの「南総里見八犬伝」をダイジェストでまとめていて非常に見やすいです。アクションもCGも力が入ってます。角川映画の「里見八犬伝」の主役は犬江親兵衛でしたが、やはり犬塚信乃の主役の方がしっくりきますね。イケメンキャストが軽すぎるし、玉梓(栗山千明)をラスボスに据えたファンタジーバトルはオリジナルを改変し過ぎな感じはありまずが、リアリティのある「実」のパートとのコントラストを明快にする意図があり、それはそれで良かったと思います。

あと、改めて思ったのは、本作の滝沢馬琴は山田風太郎の自画像なのですね。馬琴がが北斎や鶴屋南北(立川談春)らとの会話を通して語った「物語のマナー」は山風のそれ以外の何物でもありません。「読者に許される嘘をつく」。これこそ彼の小説の最大の魅力ですし。結局のところ、山風と八犬伝、根っこが同じだから両方とも好きなんですよ。

ひとまず原作ファンとしては十分満足できる作品であり、映画化してくれたことに深く感謝したいです。

なお私事ですが、私の父は研究者で、80歳を過ぎて緑内障でほぼ視力を失いながら、今もど根性で専門書の執筆を続けています。本作の馬琴の姿が父の姿と重なって泣けてきます。なお、私の妻には馬琴とお路のエピソードを繰り返し話して嫌がられています(笑)
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