ぶみ

ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版のぶみのレビュー・感想・評価

3.5
ある晴れたバレンタインの日に、彼女たちは姿を消した。

ジョーン・リンジーが上梓した同名小説を、ピーター・ウィアー監督、レイチェル・ロバーツ、アン=ルイーズ・ランバート、ヘレン・モース等の共演により映像化したオーストラリア製作のドラマで、1975年に本国公開された作品の4Kレストア版。
寄宿制女子学校であるアップルヤード・カレッジの生徒が岩山であるハンギング・ロックにピクニックに行ったところ、岩に登った生徒三人と教師一人が忽然と姿を消してしまう姿を描く。
オリジナル版は未鑑賞。
アップルヤードの校長をロバーツ、教師のポワテールをモース、失踪してしまう生徒の一人ミランダをランバートが演じているほか、ドミニク・ガード、マーガレット・ネルソン等が登場。
物語は、冒頭息を呑むような透き通った美しさを誇る少女のアップでスタート、これがランバート演じるミランダなのだが、この数秒しかないようなシーンだけで、一気に本作品の世界観に引き込まれることに。
その後、1900年の聖バレンタインデーである2月14日、ハンギング・ロックでピクニックする生徒と教師が消えてしまう前半から、彼女等を探し出そうとする人々の様が中心となる後半という流れになるのだが、何はともあれ、オーストラリアの乾いた荒野と、そこを砂埃を舞上げながら失踪する馬車、そして白い衣装を纏う生徒という絵の強さが凄まじく、規律の厳しい学校から一歩外に出て退廃的とまでは言わないまでも開放感に浸る生徒と、耽美な雰囲気とのコントラストに最後まで釘付けに。
そして、この異世界のような前半に対して、失踪してしまった彼女等を探し出そうとする後半は非常に現実的と、この対比もまた、本作品の謎めいた雰囲気に拍車をかけているなと感じた次第。
また、日本公開は何故か公開から11年が経った1986年なのだが、本国ではCG夜明け前となる1975年の作品であるため、予告編にもあるように、横たわるミランダの横をトカゲが這っていくようなシーンではキャストは内心ドキドキしていたのだろうなと推測してしまったのと同時に、一瞬コアラが登場していたのはオーストラリアならではだったところ。
とりわけ、コルセットを外していたり、教師が下着になっていたという開放を思わせるエピソードが続く中で、黒い靴下を脱ぐ直接的に描いたカットの甘美かつ艶やかさたるや、言葉では語れないものとなっている。
後にハリウッドに進出し、『いまを生きる』『トゥルーマン・ショー』や『ウェイバック ー脱出6500kmー』と、幅広い作風を見せてくれたウィアー監督の初期作品であり、同じくオーストラリアを舞台としたジョージ・ミラー監督の『マッドマックス』シリーズと同様な渇いた空気が見逃せないものとなっており、謎が謎を呼ぶような展開により、観終わった後、白昼夢を体験したかのような余韻が残るとともに、もし日本版リメイクを作るとしたら、ミランダ役には有村架純をキャスティングしたい謎めいた一作。

答えが出ない謎もある。
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