いち麦

1980 僕たちの光州事件のいち麦のレビュー・感想・評価

1980 僕たちの光州事件(2024年製作の映画)
4.0
中国料理店を営む家族と近隣の住民たちが日常の生活で体験した光州事件。民主化への道が切り拓かれていく激動の韓国現代史を多面的に理解するために、これまでの「KCIA 南山の部長たち」「ソウルの春」「タクシー運転手 約束は海を越えて」「1987、ある闘いの真実 」などに加えて新たに見ておきたい作品の一つになったように思う。

映画では1979年10月26日の朴正煕大統領暗殺から時系列順に主な事件がテロップで説明されるが、当時、国や軍によって情報統制されたメディアの報道では真実やその詳細が国民に伝えられていないため現場は混乱状態にあり人々は翻弄されていたのが伝わってきた。

親族や大切な人たちを奪った悲劇は一体、誰のせいなのか?このメイン・テーマをブレることなくドラマが真正面から突いてくる。改めて武力(軍)の恐ろしさや民主主義の機能に欠かせないものは何なのかも考えさせられた。
極めて重要な人物と思われるチョルスの父親がドラマの中では“不在”の状態のまま物語が進行する。実話ベース故の配慮かも知れないが、敢えて彼に纏わる映像がなく詳細が曖昧になっていること、料理店開店時の客寄せ道化師としての姿がある意味では暗喩にもなっていることなど上手い演出だと感じた。長男に比べて自分に対する父親(チョルスの祖父)の態度に納得がいかない次男。彼の思いが激動の渦に飲み込まれていく様は人間ドラマとして見事で見ていて胸が苦しくなる思いがした。

字幕翻訳は本田恵子氏。字幕監修に秋月望氏(朝鮮近現代史、中国・朝鮮外交史が専門の研究者)。

《余談》
“中華料理店”と言いつつ韓国料理のチャジャンミョン(짜장면 ; 所謂“ジャージャー麺”)を出しているじゃないか? と思って調べてみたら、韓国では中華料理に分類されており、逆に中国では韓国料理と認識されているとのこと。状況が日本の所謂“ラーメン”と良く似ていて面白い。
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