『ルート29』とは、《国道29号線》のことだった。兵庫県姫路市から鳥取県鳥取市に至る道である。この路線の途中には大きな町はない。深い山のなかを道は走る。
孤独で無口な女性(綾瀬はるか)と少年が、この国道を辿っていくロードムービーであるがリアリズムの作品ではない。台詞はごく少ない。社会の周縁にはじき出された二人が進んでいくシュールレアリスム的な幻想のなかに、《言葉を発することがない》人たちの生きにくさを浮かびあがらせる。
彼らの周辺に現れる人たちはみなスローモーションのようにゆっくりと話し、ゆっくりと動く。
ありふれた、そして都市生活者からは忘れられてしまったような山の中や田舎の町の風景を背景に、ときおりアンゲロプロスの映画を思わせるような美しい活人画が提示される。