よい映画であればあるほど、観たあとすぐに感想を紡げないのだが、実際少し経ってから冷静な目で言葉を選ぶ方が、感情過多になりがちな自分を抑える意味もあるしいいのかもしれない…
以下ネタバレ
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前評判とリアル教皇選挙のお陰もあってかこの種の渋め映画にしては超満員だった。
無音と鼻息が際立つ音響効果、淡々としつつも迫力ある会話、挑みあう視線の使い方、卓越した演者たちの抑えた演技…サスペンス要素を絡めつつ、教会の常識やコンクラーベの実態を全く知らずとも飽きさせることなく進んでゆく構成がとにかく素晴らしい。
文字通りキリスト教の頂点に君臨する教皇の座を狙う面々の、取り繕いながらも欲望の垣間見える老獪な感じに、聖職者とはいえ彼らが権力者であることを否応なしに思い出してしまう。いかにもなテデスコは置いておいたとしても、品がいいように見えてたトランブレやアデイエミの脱落がきてベリーニまでも…とくると、「じゃあこの中で一番ましなのはローレンスしかいないじゃん」と見ている側に思わせる流れがとてもよい。それで私も、そうか、ここにおとしどころを持ってきたのね…と思ってすっかり油断していたタイミングでのあの爆発シーンにはちょっと(いやかなり)度肝を抜かれた。
レイフ・ファインズ演じるローレンスの、「立派な教皇を選ぶ責任がある」という重圧に押し潰されそうになる内面を暗闇や廊下の間合いや荒い鼻息で表す演出がよかった。自己コントロールが完璧であるがゆえ「私は教皇になどなりたくない」は本音ではあったのかもしれないが、いざ「自分しかいない」となったあとで、「そうなったら…」に微妙に変わってゆくあたりが人間らしいなと思ってしまったし、だからこそベニテスが選ばれたとき拍手を送りながらも何とも言えない表情をしていたのが絶妙で実にリアル味を感じた。
次第に欲望をむき出しにしてゆく彼らをモヤモヤした気持ちで見つめていたら、そうした言葉に出来ぬ苛立ちを一斉に粉砕してくれた後半のベニテスの台詞に痺れた。更には、「本当の戦争」を知るベニテスを勇気づけたのが我らがローレンスの「確信の狭間」という説教であったことも胸熱中の胸熱。
どこを取っても画が美しすぎてため息が出る。割れた窓から入る一陣の風が投票前の彼らの傍らに置かれた冊子(聖書?)を揺らす微細な演出、螺旋階段の手、沢山の黒衣と赤と青い傘。
そしてラスト、窓を開けたローレンスの目に映る修道女たちの姿と笑い声。彼女たちはシスターアグネスが言う「ここにいるのに目に見えない存在」。神の名の元で、過去に大量殺戮を繰り返してきた宗教戦争の愚を鑑みても、宗教とはある意味世界最凶の盲点でもあるとは思うが、あのカットを最後に持ってきたことで、信心の盲目と現在の混沌社会とリベラルの持つある種の限界を超えよう(超えたい)という作り手の強いメッセージを感じて心が震えた。正直、書いても書いても言いたいことが溢れてくる…
映画館で観られて本当によかった。