2024年419本目
どんな波にも負けない
Disney+ Original
1926年に女性として初めて英仏海峡横断に成功した実在の水泳選手・トゥルーディ・イーダリーの半生を描いたスポーツドラマ
アメリカのニューヨークで生まれ育ったトゥルーディ・イーダリーは、病弱ながらもどんなことにも真摯に取り組む努力家だった。まだ女性が泳ぐことが一般的でなかった当時、世間から白い目で見られながらもあきらめず、姉や母、献身的なコーチらに支えられながら、1924年パリオリンピックに出場を果たす。そして彼女は、屈強な男だけが達成できると言われた英仏海峡を泳いで渡ることに挑戦しようと決意するが…。
『スター・ウォーズ』シリーズのレイ役で知られるデイジー・リドリーがトゥルーディ・イーダリーを演じるほか、『ホテル・ムンバイ』のティルダ・コブハム=ハーヴェイ、『ある画家の数奇な運命』のジャネット・ハイン、『ボイリング・ポイント/沸騰』のスティーヴン・グレアム、『プッシャー』のキム・ボドゥニア、『ジョーカー』のグレン・フレシュラーらが出演。『ライオン・キング』のジェフ・ナサンソンが脚本、『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』のヨアヒム・ローリングが監督を担当し、『トップガン マーヴェリック』のジェリー・ブラッカイマー、チャド・オマンがプロデューサーとして名を連ねた。
女性で初めて英仏海峡を泳いで横断したトゥルーディ・イーダリーの実話をもとにした感動の物語。1900年代初頭、女性が社会で活躍することに偏見が強かった時代に、彼女がその壁を乗り越えていく姿は勇気と感動を与える。本作は、トゥルーディの挑戦を史実に基づいて再現しながら、彼女の内面や葛藤も丁寧に描いており、史実としての面白さとドラマとしての奥深さを兼ね備えている。
女性差別が深く根付いていた当時、「女性は運動に向かない」という偏見も当然に広く浸透しており、女性アスリートに対する社会の無理解が蔓延っていた。女性選手が着用する水着が「破廉恥」と批判される場面や、女性だけが人目を避けて地下のプールで練習を余儀なくされる描写は、当時の社会がどれだけ女性水泳選手に制約を課していたかを浮き彫りにしている。そんな逆境の中でも、トゥルーディは夢を諦めることなく、英仏海峡横断という壮大な挑戦に立ち向かう。そして、彼女がその挑戦を成功させたことで、女性には不可能だとされていた固定観念が打ち砕かれ、スポーツおける女性の可能性が世界に示された。
主人公・トゥルーディを演じたデイジー・リドリーの演技は、静かな力強さを感じさせるもの。毅然とした表情はトゥルーディの覚悟と情熱を伝え、撮影前から水泳の特訓を積み重ねたリドリーの努力が本作のリアリティを支えている。トゥルーディの家族やコーチも、物語において重要な役割を担う。姉のメグが父の決めた結婚を受け入れるシーンは、当時の女性の限られた選択肢を象徴的に描いており、また、コーチのビル・バージェスは、時に奇抜な言動を見せながらもトゥルーディの挑戦を支える頼もしい存在として描かれている。男は悪者ばかりしか登場しないのかと思いきや、2人の間には男女間の信頼がしっかりと築かれ、物語に温かみを加えている。
スポーツ映画としては、英仏海峡横断のシーンが特に見どころ。潮流が変わりやすかったり、アカクラゲの大群に遭遇したり、暗闇の中たった1人で泳ぐことを余儀なくされたり、とにかく過酷な状況に連続して直面するが、トゥルーディはそれでも命を懸けて泳ぎ続ける。その様子は、圧倒的な緊張感と臨場感を生み出している。彼女がニューヨークで万雷の拍手を浴びるクライマックスは、成し遂げたことの偉大さを物語ると同時に、とても晴れやかな気持ちにさせる締め括りだった。