HAYATO

人生、ブラボー!のHAYATOのレビュー・感想・評価

人生、ブラボー!(2011年製作の映画)
3.6
2024年428本目
533人の父親
かつて精子提供に匿名で協力したばかりに、533人の父親となり、そのうち142人から身元を開示するよう訴えられた主人公を描くハートフルコメディ
42歳独身で、借金取りに追われながらだらしなく暮らすダヴィッド。妊娠した恋人・ヴァレリーは子どもを自分で育てるという。過去に「スターバック」という仮名で693回の精子提供を行い、その結果として生まれた533人の父親であることが判明したダヴィッドは、ある日、弁護士を通じてそのうち142人が、遺伝子上の父親の身元開示を求める訴訟を起こす予定だと知らされる。身元を明かすつもりは毛頭ないダヴィッドだったが、子どものうちの1人が自分の応援するサッカーチームのスター選手であることを知ると、他の子どもたちにも興味がわきはじめ……。
『大いなる休暇』で脚本を担当したケン・スコットが、監督・製作総指揮・脚本の3役を担当。『Mommy/マミー』のパトリック・ユアールが主人公・ダヴィッドを演じるほか、『ロリエ・ゴドローと、ある夜のこと』のジュリー・ルブレトン、『あしたは最高のはじまり』のアントワーヌ・ベルトラン、『イースタン・プロミス』のサラ=ジャンヌ・ラブロッセらが共演した。2013年に ハリウッドで『Delivery Man』というタイトルでリメイクされた。
本作の最大の特徴は、その風変わりな設定。ダヴィッドが精子提供によって533人もの子どもを持つという古代エジプト王もびっくりな非現実的な状況が物語全体の土台となる。この設定自体は滑稽であり、一見するとド直球コメディに思えるが、本作が描くテーマは意外にも深い。「家族とは何か」、「親子の絆は血縁だけで決まるのか」といった疑問に加え、不妊治療や精子提供といった現代社会が直面する倫理的問題にも触れており、笑いだけでなく、考えるきっかけを提供する作品だ。
ダヴィッドは、冒頭では典型的な「ダメ男」として描かれている。多額の借金を抱え、生活態度も定まらず、恋人・ヴァレリーに愛想を尽かされている。しかし、142人の子どもたちから訴訟を起こされるという事態をきっかけに、彼の人生は一変する。最初は彼らに関与することを拒むダヴィッドだが、子どもたちに興味を持ち、素性を隠しながら接触を始める。サッカー選手として活躍する子、ストリートミュージシャンとして夢を追う子、心の病と闘う子など、それぞれ異なる背景を持つ子どもたちとの交流を通じて、人生の苦しみ、喜びが描かれる。彼が子どもたちの生活や苦労、成功を目の当たりにする中で、段々と父性が芽生える様子はユーモラスで感動的。ダヴィッドが親であるという事実を受け入れ、同時にそれをどう意味付けるかを模索する過程を通じて、本作は親になることの意味や責任を再定義しようと試みている。
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