Jun潤

夏目アラタの結婚のJun潤のレビュー・感想・評価

夏目アラタの結婚(2024年製作の映画)
3.8
2024.09.08

堤幸彦監督作品。
猟奇殺人鬼ものの邦画が続きますねぇ
『結婚』が果たしてどのくらい作品のスパイスとなるのか、監督も監督だし気になっていましたが、黒島結菜のビジュアルがもう『ジョーカー』……?
こじつけ過ぎかもしれませんが続編の公開を控えているこのタイミングだと邪推してしまいますて。

都内で発生した3件の連続バラバラ殺人事件。
犯人の品川真珠は、逮捕時の装いにより世間から“品川ピエロ”と呼ばれていた。
事件の被害者たちの遺体の一部は、未だ発見されていない。
児童相談所に勤務する夏目アラタの元に、保護観察中で、頭部が見つかっていない3人目の被害者の息子・山下卓斗が訪ねてくる。
用件は、アラタの名前を使い、獄中の真珠と文通をしており、最後に来た手紙で会う約束を取り付けてしまったとのこと。
困惑するアラタは、面会室で初めて会った真珠に興味を惹かれるも、真珠からすぐに手紙の相手ではないことを見破られ、立ち去ろうとする彼女に向けて、“結婚”を提案する。
真珠の無実を信じる私選弁護人の宮前もまた彼女に惹かれており、アラタと出会って以降積極的に話してくれるようになった彼女から事件の真相を聞き出すため、アラタに未だ明らかとなっていない真珠の情報を提供。
一回20分の面会という名の逢瀬を重ねるうち、真珠は見つかっていない遺体を遺棄した場所の手がかりとなることを話すようになる。
アラタ、宮前、法廷、そして日本中が真珠に惹き込まれ、巻き込まれていく。
果たして事件に隠された真相とはー。

不安の日テレクレジットを吹き飛ばす堤監督の演出パワー!
かと思いきやそれも終盤に向かうにつれ尻すぼみ。
というか作中で扱われていたテーマと『結婚』の意味と、プロモーションの雰囲気が全然違う気がする、やはり日テレか。
支援者や作家、記者が死刑囚と獄中結婚するというのは現実にもある話とのことで、それを予告で隠し通していたのは良かったかと思うのですが、真珠のビジュアルをあんな強めに出していたらサイコキラーものと思われても仕方ないですって。

今作で描かれていたテーマについての個人的な解釈としては、子どもと親、そして欠落した母性を埋める愛情だったのかと思います。
作中で明かされた真珠の真実と合わせて、親の愛を十分に受けず、心が幼いまま大きくなってしまった人の悲哀が、似た境遇の子ども達、同じように養護施設で育った境遇を持っていても児相で働くアラタの存在とリンクしたり対比したりしながら描かれていました。
そう思うと序盤で真珠がアラタを翻弄したり、そんなアラタの好みである同僚の桃ちゃんと話したがったりしている描写は、終盤まで一貫していたかと思います。

しかしなぁ、そんな真珠やアラタの場面の演出が強すぎたというか、ところどころ脚本に粗があったというか、もう少しサスペンスものとしての完成度も仕上げてきて欲しかったところ。
個人的に一番気になったのは、真珠とアラタに奇跡的な繋がりがあったとしても、最初のきっかけは卓斗からの手紙だったわけで、そこに何が書かれていたのか、真珠は本当にただ会ってみたかったからという理由だけでアラタを騙った卓斗と会う約束をしたのか、ですね。
その点が気になったというか、そこが後々重要になってくるのかと思っていたので、特に何もない展開に肩透かしを喰らってしまった感じです。

面会室の場面はさすが堤監督ですね。
ワンシチュエーションスリラーのように人間の狂気や恐怖を映し出し、仕切りの反射を利用するだけでなく、仕切りなんて無いんじゃないかと思わせてくる程真珠の顔が近く、はっきりと聞こえてくる彼女の声と、本来は成立し得ないはずのシチュエーションを創り上げ、違和感と緊迫感を演出した手腕に感服です。
黒島結菜の役作りもそれを後押ししていましたね。
メイクとかじゃなくてマジで全部の歯入れ替えたんじゃないかと思いましたし、ストーリーの進行に応じて様々な表情を見せてくれました。
Jun潤

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