ジャン黒糖

Turtles All the Way Down(原題)のジャン黒糖のレビュー・感想・評価

Turtles All the Way Down(原題)(2024年製作の映画)
3.4
国際線に乗ってこれ観たよ5本目。(また間空いてしまった、乗ったの9月だよ笑)

今回は『インスタント・ファミリー 〜本当の家族見つけました〜』などの若手俳優、イザベラ・メルセード(※)主演で、『ペーパータウン』などのジョン・グリーンによる同名小説を映画化した青春映画。
(※:イザベラ・モナーから2019年に改名したんですね、知らなかった)

ポスターの親友との2ショット姿からか、ルック的にはオリビア・ワイルド監督の『ブックスマート』を少し想起したけれど、実際はティーンムービーらしい趣もありつつ、しっとりとトーンを抑えた、少しビター気味な青春映画だった。

【物語】
高校生のエイザは強迫性障害(OCD)に悩みながら日常を送る中、ある日親友デイジーからの誘いで、不正行為の容疑から逃れるために逃亡した地元の億万長者の失踪事件を調べることになるが、その過程で、事件の鍵を握る大富豪の息子であり、エイザの幼馴染でもあるデイビスと再会する。
やがてふたりの関係は進展していくが、その一方で、エイザは自身のOCDによる強迫観念と現実の狭間で揺れ動き、悩みながらも恋愛、友情と向き合っていく…。

【感想】
本作は、エイザのOCDによる精神状態に焦点を当てて描写しており、特に極度な潔癖症によって、他者と触れ合うこと=細胞レベルで融合・作用を引き起こすことへの彼女が抱える恐怖感をまんま細胞レベルで視覚化された描写は、さながらダーレン・アロノフスキー監督作『レクイエム・フォー・ドリーム』のドラッグ描写を観ているかのような視覚表現・音使いで冒頭から印象的だった。

ただ、多かれ少なかれ、自分と他者の触れ合いについて気にかけてしまうことは誰にでもあると思うし、彼女が拭いたくても拭えずに苦悩する姿はリアリティがあり感情移入しやすかった。
演じたイザベラ・メルセードは『インスタント・ファミリー ~本当の家族見つけました~ 』『ロザライン』以来の出演作鑑賞になったけれど、これまで観ていた作品以上に繊細な役柄が思ってたよりとても合ってた。


一方、親友デイジーを演じるクリーは、キャラがこの手の内省的な主人公との親友コンビとして相性最高だった。
繊細なエイザとは違い、ガサツで大胆なデイジーがバイトを断る場面とか、主人公とのギャップについニヤけてしまった。
ただ、ガサツななかでも、傷付いているエイザに彼女なりのアプローチで慰める姿や本音でぶつかり合おうとする姿は親友として本当に大事な存在。


そして、エイザと恋愛関係に発展していくデイビス。
彼女を元気付けようとその富を存分に活かしてデートする場面はアメリカのティーン・ムービーらしい豪華さに眼福しつつ、OCDを抜きにエイザがやりたいことを叶えようとするピュアな優しさが甘酸っぱく、これまたティーン・ムービーとして悪くない。


中盤、デイビスがエイザのために大胆な移動手段で叶えた、遠方にある大学で講義を受けさせる場面では、"自由意思"をめぐる講義が行われ、本作のテーマにも通じる内容として興味深かった。
社会的制約のなかで自由の選択を獲得できるか、という問いはまさに自身の障害と向き合うエイザにとっては「私が私らしくいられるか」という問いへの答えを示唆するようで良かった。
ちなみにこの講義では、「自由意思と思われる判断も、実は判断を下す7秒前には予測できているという実験結果がある」的なことが言及され、自分自身の意思に先天する存在とは何かを考えるとエイザの今後の生き方により奥行が生まれるような場面であった。


ただ、ちょっと残念だったのはラスト。
エイザが友情、恋愛、それぞれに不器用にも衝突してしまうことが遠因で起きる事故と、そこからの彼女が下す決断、親の不在により一人で幼い弟ノアの面倒を見ないといけないデイビスの進路が、ラストの着地として唐突で微妙な結末として一気に冷めてしまった。。
あれ、エイザの「弟思いなのね」って、その程度なん…?
いや、感情的には納得できるんだけど、物語的には突然過ぎてちょっと…これが10代を描いた作品としてリアルなら自分はわからない年齢になってしまったのかな。笑
ジャン黒糖

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