2022年、テヘランで、ヒジャブをちゃんと着ていなかったとの理由で警察に拘束されたクルド人女性が亡くなり、デモが起きた
その時の映像を織り交ぜ、話の軸の一つとして、この映画は作られている
ー以下、本作のWikipediaより引用ー
監督のモハマド・ラスロフは本作の撮影終了後、自作映画でイラン政府を批判したとして、国家安全保障に反する罪により懲役8年、むち打ち、財産没収の実刑判決を受けたが、執行される前に国外へ脱出しドイツへと亡命した。
ー引用終わりー
・主人公の一家について
保守的なムスリムである父親は、イスラム家父長制の象徴的な存在で、打倒されなきゃいけなかったのかもしらん
が、母親が稼ぐ見込みのない現状においては、少なくとも家庭内では父親の稼ぎ(立場)になるべく支障の出ないよう考慮しつつ、各々内心で反体制の火を灯しておけば良いわけで、パパちょっと可哀想カモ…
あの結末に父親を追い込んだのは、拳銃を隠すという愚行に走った「犯人」であって、僕は「犯人」に憤りを感じた
家庭内の抑圧がピークに達したという見立てもできるかもしれないけど、僕にはそこまで終わってる家族だとは思えなかったので、割と父親に同情しながら観てた
「犯人」がとった行動は異常な行動だと思うが、引くに引けなくなったのか、想定外の展開だったのか、事態が負のスパイラルに落ちていった
ノーチェックの作業で人を重く罰する仕事に呵責を覚えていたように、父親は信念と良心を備えた誠実な人物である(良い面ばかりを取り上げると)
彼の痛切なる悩みをまともに共有するでもなく、新居への期待に胸膨らませて家電の買い替えをねだる妻、これはとても他人事とは思えませんな…
そういう期待自体が悪いってわけじゃ当然なくて、優先順位というか、夫のケアがもうちょっと必要ではないの?と思った
今の日本であのクラスの生活をしてる人はそう多くはないのでは、という程度に恵まれてる家庭環境だったと思う
親父は頑張ってたよ、保守的だけど
以上は、主人公イマン一家について思うことである
一方、この映画が投げかけるメッセージに関しては異論がない
・イスラム社会の問題
イランのようなイスラム国家は、というかイスラーム世界は、文化的にアップデートすべき状況にあると僕も思う
昔は物流やエネルギーといったインフラが未発達で、冷蔵庫などの家電もなかったし、医療技術も未熟でコンドームもなかった
その時代においてはアッラーやムハンマドの教えが理に叶っていたかも知らんが、今は状況がまったく違うわけで
じゃあどうすりゃ変われるの?というと妙案があるわけもなく…
若い世代がSNSで意見や情報を交換していき、彼らがリーダーシップをとる年代になったころ、改革がなされるのかもしらん
・ご飯が美味しそう
昔通ってたペルシャ料理店を思い出して調べたら、コロナ禍前に閉店してた…
また来日して飲食店やるとの話だったが、元気にしてるだろうか
・聖なるイチジクの種とは
イチジクは、その種を鳥に運ばせ、他の木に落ちて芽生え、巻きついて育ち、自らの根が地に張られた後に、その木を枯らしてしまう植物らしい
それを回収するようなラスト
なるほど〜
・長い映画でしたが
鉄砲ないない!になるまで1時間以上をかけるとは思わなんだが、飽きずに観ることができた
ただ、2時間くらいのとこまでは純粋に楽しめたんだけど、終盤のシャイニングみたいな展開で「なんか思ってたのと少し違う」という気にはなった
・宗教と社会(制度、政治、価値観)
本当に、「宗教が裁く社会」は間違ってると思うんだけど、それは何の宗教にも信心を持たない僕だからそう言えるってことなんだろうか
とは言うものの、宗教の影響を完全に排したとして、どうやって世の中のルールを決めたら良いんだろうか
道徳も、その土地に根付いた文化がもたらすもので、それも宗教に繋がるところが少なからずあるだろうし
キリスト教の西洋文明が世界の中心みたいになってるから、それらの文化を「客観的に望ましい社会だ」と認識しているところはあるかもしれない
今の日本とか西側諸国に共通するような法規範とか価値観は概ね正しいと思っているけど、何を以てそれらが正しいと主張できるだろうか、敬虔なムスリムを説得できる言葉はあるだろうか、結局宗教が形成してきた価値観の中に、自分も立っているだけなんだろうか
途中から映画のレビューを放棄したけど、非常に良い映画でした!
★★参考文献★★
「イスラームにおける女性観」
https://ippjapan.org/archives/7046