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まるのkanacoのレビュー・感想・評価

まる(2024年製作の映画)
3.7
自分が描いた「○」に翻弄されていくアーティストの〈世にも奇妙な物語〉をゆったりした独特なテンポでシニカルに描く。登場人物が個性的なるも配役がピッタリ✨物語はファンタジー、でも世界は現実的。生きるってムズカシイ…と鋭利に突きつけながらも「まるくありたい」と願い同時に尖っている作品🤔(140文字)

****以下ネタバレあり&乱雑文****

★注意!★
登場キャラクター、ストーリーなどのネタバレ記述があります。最新作のため未鑑賞の方はご注意ください。

◆あらすじ◆
美術大学を卒業しているものの自身のオリジナル作品を描くことに意欲的ではなく、独立を目指すわけでもなく、人気現代美術家のアシスタントを無気力なまま受け身で続けている男・沢田。ある日、同じくアシスタントをしている女の子から「私たちは搾取されている」と指摘されるも「人生なんてそういうもの」と受け流す。そうして雨に降られながら自転車に乗った帰り道、ふと目に入った雨に打たれながらも飛んでゆく鳥たちに気をとられた沢田は転倒し商売道具である腕を骨折。そのまま流れるように職を失ってしまう。利き手を怪我し、クビになり、代わりの利く不要な人間のような扱いを受け、家賃を取り立てられ、そんなアパートも欠陥住宅で傾いていて、隣人は毎日のように騒々しく怒鳴り、偶然会った同級生にはバカにされる。虚ろな瞳でアパートの畳に寝転がった沢田の目に映ったのは、今にも切れかかって点滅する蛍光灯の丸。そして沢田はふとキャンパスの上を歩く一匹の蟻に気がつく。蟻に導かれるように…まるで憑りつかれたように黙々と蟻を囲うマルをいくつも描く。しかしこの沢田の描いた「〇」が沢田の知らないところで評価され、その一人歩きはさらに大事に…。そして沢田は次第に日常を〇に侵食されはじめ…。

❶自分が描いた「○」に翻弄されたアーティストの〈世にも奇妙な物語〉

Kanacoが学生時代から細々と押している堂本剛。ずっと熱心に追いかけているわけでもなく軽めな距離感ではありますが、その年月だけでいうと私の歴代推しの中ではダントツの長さ。そんな剛のお芝居が久しぶり(7年ぶりくらいですかね。おそらくドラマスペシャルの『ぼくらの勇気 未満都市2017』がラストだったと思うので)に見ることができるとのことで、ウキウキで劇場へ🤗

感想は…見る人を選ぶ上に言語化しにくい変な映画だ~(そうだと思っていたさ!)😂

ストーリーにご興味があれば◆あらすじ◆を読んでいただければと思いますが、類似テイストは〈世にも奇妙な物語〉。それをロングバージョンに、そしてゆったりとした独特なテンポで描いていきます。

主人公の沢田は無気力な人間に見えつつも確かに感じている戸惑いや葛藤を瞳の揺らぎに映していますが、結果としていつも強く主張せず受け身で静かに流され続ける男で、例え不当な扱いであったとしても他者に当たれません。そんなフワフワとした性格の彼を「鑑賞者を退屈させないギリギリのテンポ(たぶんする人もいる)」で登場する個性と我が強い脇役たちと〈不思議な現象〉が囲って進むお話につき、基本的にはローテーション、オフビート、シュール、間をたっぷり使う進行です。本作は263館とで上映されていますが、役者陣の豪華さでは納得なるも映画の内容はどちらかというと単館系…ミニシアターで静かに浸るような、刺さる人には刺さるような印象の作品でした。

ちなみに役者陣…堂本剛に当て書きされた主人公が堂本剛にピッタリなのはそうですが、他のキャラクターも役者さんたち…綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィン、小林聡美、柄本明、早乙女太一、片桐はいりにピッタリ。納得の配役という感じでした。

❷「まる」というタイトルだけど尖っている、ファンタジーな物語と現実的な世界観

私個人はというと…正直見ていてかなり辛かった!つまらないとか退屈という意味ではなく、映画で描かれる現代社会の生き辛さが苦しくて🥺オフビートなのでシュールですが、コミカルさはあるので映画そのもののテイストは暗くないです(もはや明るめ)。ただ同時にシニカルです。自分の展覧会にて沢田が自分の絵にこびりついていた“ソレ”を見つけたシーンは一番ゾっとしました😥

日々仕事をしている中でただ搾取されているだけ、個として求められていない、言いなりのペットでしかない。それを抜けて成功したとしても結局そこに“自分”がいるのか分からない。「〇」という“誰でも描けるもの”の芸術・そしてアーティストとしての価値とは?一方で「蟻は8割が働き2割はサボる」という〈働きアリの法則〉〈パレートの法則〉がありますが成功体験がない者の「そのサボっている2割に生産性がない。そんな意味のない存在になりたくない。人の役に立ちたい。でも自分はもう1.8割まで来ている」という悲鳴。反対に「その2割は本当に無価値で要らない存在なのだろうか…」と口から零れて消える言葉。

基本的に藻掻いているキャラクターは堂本剛、綾野剛、森崎ウェン、吉岡里帆の4名ですが、彼らは同じ思考は持っておらず対局に近い。堂本剛と綾野剛の対比、森崎ウェンと綾野剛の対比、堂本剛と吉岡里帆の対比。

でも…彼らは表裏一体な気もしてくる🤔特に堂本剛と綾野剛の根は繋がっていそうです。みんななりたい姿があり、人の役に立ちたくて、でもうまくいかず、藻掻き、苦しんで、感情に振り回されたり、落ち込んだり、攻撃的になったり、無気力になったり…。森崎ウェンのキャラクターだけが唯一癒されるのですが、それすらもまた哀愁を背負います。

この辛い現状に変化をもたらすのが〈沢田の〇騒動〉。それそのものはファンタジー。沢田に時々アドバイスをしてくれる柄本明が演じている謎の老人「先生」というキャラクターがいるのですが、舞台挨拶中継にて監督が「先生」は「神さま(に近いもの)」だと思っているとおっしゃっていたので、それで考えると〈沢田の〇騒動〉は現実との整合性をそこまで突き詰める必要はなく「まんま世にも奇妙な物語と考えていいのかな」と思ったし、そうすると物語がだいぶ見やすくなりました。

本作は、不利な状況を大きくひっくり返すようなカタルシス・ドラマ・エンタメ性はありません。社会、世界はこのままです。物語としても(〇騒動を含め)予測不能なことは全く起こりません。起こるのはミニマム。沢田たちの内省やお互いの関係が一歩踏み込むというささやかな変化のみ。変わらぬ厳しい世界で自分らしくあるためのマインド。堂本剛が綾野剛、森崎ウェン、吉岡里帆と結んだ、それぞれの奇妙だったり勇気づけられたり優しかったりする友情と、結局のところ最後まで揺らぐことがない堂本剛のマインドからくる、辛さと優しさ冷たさと温かさ等のちぐはぐな伝導によってこちらの感情がグラグラと揺れる、そんな不思議な物語だなと思いました。

特に綾野剛が堂本剛に贈る「おつかれ、おかえり、おやすみ」の言葉の威力が凄まじい😊

物語は抽象的でファンタジー、でも世界は現実的。これだけクドクド書いていてなんですが、自己流に映画を解釈しても良いかもしれませんが、どちらかというと映画のテーマや意味を細かく当て嵌めたり見出そうしたりするよりは、鑑賞して受けた漠然とした不安や安心、キャラクターへの共感や批判を、〈自分〉がただ真っすぐ感じていればそれで良い映画にも思いました。それくらい、鑑賞者に委ねています。だから言語化が難しい。

生きるってムズカシイ(いや「社会ってツライ」かな)、そんなことを鋭利に突きつけながらも、こう考えたら少し楽になるんじゃない?というマインドを教えてくれる、「まる」というタイトルで「まるくありたい」と願う作品であり、同時にすごく尖っている作品でした🤔

🎥🐝「20代まではよくドラマに出ていたイメージのある堂本剛。『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら〜』辺りから有名で『若葉のころ』『金田一少年の事件簿』『ぼくらの勇気 未満都市』『向井荒太の動物日記 〜愛犬ロシナンテの災難〜』『君といた未来のために 〜I'll be back〜』『青の時代』『Summer Snow』『to Heart 〜恋して死にたい〜』くらいの頃は見ていましたが…その後は私もドラマからは離れてしまった🤔

そして剛自身も芝居よりも音楽!と30代辺りからFUNKにのめり込んでからは、俳優業はしないうえにしても堤幸彦、野島伸司、福田雄一辺りの作品しか動かないと思っていました。

今回(もちろん)冗談めかして監督が「堂本剛さんは27年振りの主演で…皆さん私に感謝してください」とおっしゃっていましたが、令和になって堂本剛の〈泣きの演技〉を見ることができるとは思っていなかったので、本当に感謝です~🥰」
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