三樹夫

マミーの三樹夫のレビュー・感想・評価

マミー(2024年製作の映画)
3.8
和歌山カレー事件についてのドキュメンタリー。タイトルの「マミー」は林眞須美のことで、林健治も長男も林眞須美のことをマミーと呼んでいる。
以前より冤罪説が言われているが、このドキュメンタリーは林眞須美が犯人だという証拠はないのではないかという内容になっている。林眞須美がカレーに何かを入れていたという向かいの家からの目撃証言は、最初は1階から見たということになっていたのにしれっと2階から見たとなっているなど確証に乏しいし、カレーのヒ素を検査した科学捜査方法についても疑問が投げかけられている。過去に保険金詐欺をしていたこととヒ素を飲まされた知人についても、保険金詐欺をしていたことは認めており、ヒ素を飲まされた知人についてもあれは保険金詐欺目的でやったと林健治本人が証言している。
なんで林眞須美に死刑判決が出ているかというと、明らかにマスコミの報道で犯人は林眞須美に違いないというのと林眞須美は憎たらしいという風潮ができ、警察検察裁判所も林眞須美が犯人というのに思いっきり乗っかった。当時の報道量は凄かったし、ミキハウスのTシャツとホースで水ぶっかけるのは多くの人が覚えていると思う。また保険金詐欺をやっていた過去と、林眞須美がどう考えても人受けしないので、犯人は林眞須美というのが出来上がった。

ここまでの一連の流れを見て思い出すのが、岩下志麻と桃井かおりがワインをぶっかけ合う『疑惑』という映画で、日本中から嫌われこいつが犯人と誰もが思う桃井かおりを弁護する岩下志麻だが、岩下志麻も弁護士としての正義で弁護はするが桃井かおり自体は死ぬほど嫌いという超絶面白い映画で、その中で新聞記者の榎本明が日本中から嫌われている桃井かおりが犯人でいいやんととんでもない捨て台詞を言っていた。このドキュメンタリー公開後でも林眞須美についても疑われるのが悪いみたいなコメントをyoutubeで見たし、このドキュメンタリーの中にも林眞須美が犯人と信じて疑わない一般人が通りすがって駅前で口論になっていたが(なんか良い人みたいなことで納得してた)、推定無罪って概念はそこまで難しいものだろうか。過去に保険金詐欺をしてようが憎たらしかろうがヒ素混入という確たる証拠がなければ和歌山カレー事件については無罪じゃけなければおかしい。
やはりどこか他人事というのはあると思い、当時の検事や警察、記者などにも取材を申し込んでいるが、人が死ぬかどうかっていうことに思いっきり関わっているのに責任感を感じられなかった。このドキュメンタリー公開にあたって長男が誹謗中傷されるということすら起きている。

冒頭、花をたむける人にマスク外してもう一回撮りたいとカメラマンが指示を出しているシーンがあり、マスコミによって林眞須美のイメージは作られたということが示唆される。
けっこうあっさり保険金詐欺について語っているが、すげえ話しているなと度肝を抜かれる。その次がダメ押しのように林健治も長男が自分の家に出入りしていたヒ素を飲まされたとされる知人の家を訪ねて3人で会話を繰り広げるが、何か凄いものを見ているという気持ちになる。
林健治周辺の話というか、林健治のキャラクター自体が特異なので普通に笑いそうになる。「あのガキゃ」と口が悪くて笑ったが、林眞須美も口が悪いらしい。最後は監督がのめり込んで、まるで『ゾディアック』みたいになるというまさかの終わり方をする。
過去の回想ドラマシーンと、ナレーションはなんかやっすい再現ドラマみたいで結構ノイズだった。特に林眞須美の手紙のナレーションはいかにも演技してますというナレーションで、関西弁も強調しすぎでわざとらしく感じる。林健治と長男の関西弁がもの凄い軽快で笑ってしまうぐらいの良い感じの関西弁なので、余計にノイズに感じる。
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