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トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦のRenのレビュー・感想・評価

5.0
今年の年間ベストはこれと『室町無頼』の1,2フィニッシュでいいやと思ってしまうくらい、2025年はアクション大作の年。意味が分からないほど面白かった。原作未読。

予備知識一切不要。当時の時代背景を知らなくても、九竜城が分からなくても、冒頭のテロップ説明が頭に入らなくても、全シーンが感覚的にノリでスムーズに理解できるように作ってあるという超親切設計。企画段階から世界でヒットさせることを見据えていたのではと思う。

ポスターのぱっと見の印象通り、作中のリアリティラインをかなり低く作っている。漫画原作だからだろう、全体のトーンを相当漫画チックにしており、その過剰なまでの演出が今作を過剰なまでに面白くしている。

アクションは基本「物理的に無理だろ」「普通死ぬだろ」の2択。登場人物全員がジャッキー・チェンのカンフー映画や『キングスマン』や『ホーム・アローン』の泥棒の感覚で生きる世界。気功とか使うやつも出てきて何でもあり。でもそれ含めてこの世界のルール内でヒートアップしていくので、「何でもありすぎて萎える」感は無かった。
アクションの1シークエンス毎に「こうくるか!」と膝を打つアイデアが盛り込まれていて、アクションシーンの弱点「話が止まる」を物ともせず観る者の脳内快楽物質を噴出させ続ける。4人がかりで一人の四肢を引っ掴んで地面にバンバン叩きつけるのが一番面白かった。

そのアクションらは、九龍城の複雑怪奇に入り組んだ構造自体の面白さにも密接に絡む。地理感覚の無い主人公が圧倒的に不利に見える前半と、完全に熟知した後半のギャップも良い。

主人公は香港へ密入国した両親の顔も知らない若者。そういった境遇の人間が九竜城で、身分証明を購入するために働いて稼ぐという土台の設定が面白い。言葉を選ぶが主人公は血縁に起因する宿命を背負って生きる若者であり、拡大解釈すれば「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」のような、血の呪縛と抵抗の物語とも言える。現実の歴史にも、歴史的超人気作群にも重なる物語だ。幅広く受け入れられるだろう。
主人公が就職先で仕事を覚える感じは(九龍城の雰囲気込みで)「千と千尋」、アングラだが温かみのあるコミュニティの雰囲気は『東京ゴッドファーザーズ』『万引き家族』のような擬似家族もの、さらにはエモーショナルな青春映画の要素もあり、かなり全部乗せなエンタメであった(よく言われる「ALWAYS」感は、同作未見のため分からず!)。復讐アクションという太い軸はあるが、シーン毎に色々なジャンルの美味しいところを詰め込んでいて、そのサービス精神が嬉しかった。

最後にラスボスの魅力についても語らねばならない。雑魚キャラ噛ませ犬枠だと思っていたあいつがまさかのヒャッハーサイコチートキャラだったとは。無理ゲーすぎる絶望を味わわせてから斜め上の攻略法を見せる、知能プレイとパワープレイが同時に見られる最終決戦は超名場面。

泥臭い裏社会の話なので中心がホモソーシャル/男性になるのは致し方なしとして、男性たちが結託するあるきっかけの一つが男性→女性への暴力の復讐だったりして、結構現代で通用するポリティカルな視点も紛れ込ませており好感が持てた。

『RRR』ほどのヒットはもう無理かもしれないが、絶対に見て損ないので劇場公開が終わる前にスクリーンで観てほしい!

その他、
○ まだまだ動けるサモ・ハン。
○ 某人の最期のシーン、めちゃくちゃかっこよかった...。
○ 麻雀で負けて牌を投げ捨てるの子どもっぽすぎるけど、そういう幼なげな描写に見え隠れする盟友感、青春の1ページ感が堪らなくエモい。
○ 弱点を探せ!と喚きながらとにかく力づくで食い止めようとする取っ組み合いの絶望感、すごい。
○ ラストシーンも過剰にエモーショナル。過剰なアクションに釣り合わせないといけないので嫌味に思えない。
○ エンタメとしてのスカッと感やエモに集結するので、九龍城にフォーカスを当てるならもっと綺麗でない終末もあるのではという意見は出そう。個人的には一本のエンタメとしての完成度の高さが勝ってしまった。
○ その分、道中のストーリーは基本的にあの時代を美化するようにはできておらず、生きるために汚く生きる人々の側面を余さず描いているのでこれくらいの閉じ方でもいいじゃんと甘めに見てしまう。
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