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ベテラン 凶悪犯罪捜査班のfujisanのレビュー・感想・評価

ベテラン 凶悪犯罪捜査班(2024年製作の映画)
3.8
韓国版 踊る大捜査線、再び

前作「ベテラン」から9年、満を持して公開された続編でしたが、今回も素晴らしいアクション映画でした。

大ヒットした前作のイメージを壊さないようにと、慎重を期した結果、脚本執筆に相当な時間がかかり、また、前作のキャストの再結集にも難航。結果、前作から9年掛かったようです。

そんな、前作ファンを裏切らないことを最優先した本作。前作と同じ『主婦賭博団』 を導入に、ソ・ドチョル刑事(ファン・ジョンミン)が着ていた衣装も衣装倉庫から引っ張り出してくるほど、前作への思いが詰まった映画となっていました。

ただ、テーマは、かなり現代風。
警察組織の汚職や、悪徳財閥など、誰から見ても分かりやすい悪に立ち向かうカタルシスがあった前作に比べ、本作では、それぞれが考える正義同士がぶつかり合い、誰が悪か分からない、”正義とはなにか”を考えさせる、深いテーマが描かれていました。

そんな本作、劇中でいくつかあった、分かりにくいところを補足しつつ、ネタバレ注意で整理していきたいと思います。

<良かったところ>
■ 俳優陣
今や、世界の大物俳優となったファン・ジョンミン。近作では「ソウルの春」での悪役っぷりが見事でしたが、本作では前作の熱血漢の刑事役を続演。年齢を感じさせないアクションと顔ボッコボコの演技が見事でしたが、ほんと、この方、大御所なのに庶民的な雰囲気もあって凄いですよね。

また、今回の鍵を握るバディ役のチョン・ヘイン。かなり抜擢だったようですが、”UFC(総合格闘技)警官” とあだ名が付くほどのキレッキレのアクションと、キム・ソンホが演じた「貴公子」のように、敵か味方か分からない不気味な笑顔に鳥肌が立ちました。今後有名になりそうな逸材。

■ バトルシーン
前作と同じく、リアルさを追求したバトルシーン。
相手は悪とはいえ生きている人間。銃で殺して終わり、ではなく、あくまでも警察官として手錠をかけることがゴール。よって、延々ボコボコ殴り続けるという、痛い痛い闘いが繰り広げられます。

予告編やキービジュアルでも使われている、大雨降りしきる中でのビル屋上でのバトルや、高低差のある建物でのパルクールのような追跡劇、長い階段を転がり落ちるシーンなど、新米刑事役のチョン・ヘインは多くを自分で演じたそうで、「ジョン・ウィック」とはまた違う趣がありました。

■ 今回も、踊る大捜査線
前作に続き、踊る~の青島的な熱血刑事(ファン・ジョンミン)、スリーアミーゴスのような中間管理職上司(オ・ダルス)、テクニカル系のワン刑事、男勝りでドロップキックが得意なボン刑事など、陽の当たらないはぐれものチームが団結して事件を解決する様は、今回も踊る大捜査線っぽくて良き。

参考:ベテランのfujisanの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画
https://filmarks.com/movies/64261/reviews/180365181

<イマイチ・分かりにくかったところ>
■ 説明不足
前作を覚えていれば問題ないのですが、チームメンバーそれぞれの説明が全くありません。それぞれかなり個性的な面白いメンバーなので、そこはもったいなかったし、9年ぶりの続編なので、そのあたりは少し説明があったほうが良かったかも。
なので、前作をおさらいしてから見たほうが楽しめるかと思います。

■ 格闘中心で、ストーリーに緩急がない
上記の通り、凄まじいバトルシーンはあるものの、それらが次々に連続するようなストーリー展開になっていて、ストーリーに起承転結がありません。言うなれば、起→格闘→格闘→格闘→決着、という感じ。

これは、いい意味では凄いスピード感、ドライブ感でもあり、見ているとあっという間に時間は過ぎていくのですが、逆に言うと、ストーリーそのものは説明不足で分かりにくい。

格闘シーン中心で、背景描写を省略した編集は若干詰め込みすぎな印象で、下にも書きますが、韓国特有の文化も関係してくるので、理解出来ていないまま話が進んでしまった感がありました。

■ テーマが暗い
何と言ってもこれですかね。
前作は、仲間内でのしょうもない内輪もめや、酔っ払いの面倒を見るとか、実はあいつはお前のことが好き、とか、そういう明るいコメディタッチの日常が描かれていたからこそ、巨悪との対比が活きました。

一方で、今回のテーマは『私刑』。
いわゆる、法で裁けないなら自分が裁く、というやつですね。

現代を舞台に、バズり狙いの個人Youtuber達が、特定の誰かを社会の敵として煽り、社会的な制裁を下す。見ている方も、これはやり過ぎだろうと思いつつも、野放しになった悪を懲らしめるというカタルシスを感じてしまう。そんな、自分の中に存在する『善』と『悪』の2面性。

これは、ジェイク・ギレンホールがスクープ映像を求めて暴走していくカメラマンを演じた「ナイトクローラー」や、超法規的に悪を制裁し続けるバットマンは本当に正義の味方なのか?を問うたノーランの「ダークナイト」の路線。

本作では、”正義部長”が民衆を煽り、”ヘチ”という謎の人物が、実際に制裁を下す。そんな、スマホを手に、見世物のように死体に群がる群衆に対して、ソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)は、『殺人に、良い殺人も、悪い殺人もあるものか』と叫びます。

ここで描かれる、自分の正義 vs あなたの正義、の構図は、現代風であり、理解はできるものの、個人的には、前作のような分かりやすいテーマが良かったなぁ、と思ってしまいました。

■ 韓国特有の文化
□ ”ヘチ”とは
本作でとても大事な意味を持つ、『ヘチ』
韓国では、『善と悪を見分け、悪を懲らしめる正義の象徴』として知られている伝説の生き物で、今のソウルを始め、古くから多くの場所に像が設置されているほど身近な存在だそう。

参考:獬豸 - Wikipedia
https://w.wiki/Docd

つまり、韓国の方にとっては、”ヘチ”という単語が出てきただけで、どういう存在なのか、が伝わり、その前提で説明が省略されていたので、ちょっと分かりにくかった。

□ 実際の事件との関係
また、前作、今作と続けて登場する『主婦賭博団』や、警官による過剰行為、軽い罪で釈放された元受刑者への集団ハラスメントなど、それぞれを詳しく調べていませんが、韓国ではそれぞれ思い当たる実際の事件があるそう。

そういった意味でも、本作で描かれた内容に対して、より身近なものと感じられるようです。


■ まとめ
ということで、期待を裏切らない、十分に楽しめる素晴らしいアクション映画ではあったものの、大絶賛!とまではいかない映画でした。

ただ、リュ・スンワン監督の打率の高さというか、裏切らない安定感みたいなものは凄いですよね。

ベテランシリーズ以外でも、2021年の「モガディシュ 脱出までの14日間」、2023年の「密輸 1970」と、期待を裏切らないクオリティを続けられる才能。

本作も韓国では記録的なヒットを飛ばし、本作のプロモーション・インタビューで、ファン・ジョンミンが『今度は、9年も間を空けずに頼むよ』 みたいな発言をされていたので、近い内にまた続編がありそう。

そうそう、本作、エンドロール後のポストクレジットに映像があるので、お見逃し無く!
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