ヨーク

リンダとイリナのヨークのレビュー・感想・評価

リンダとイリナ(2023年製作の映画)
3.9
面白かった、というよりも好きな映画だった、という感じのギヨーム・ブラックの約40分の中編映画である『リンダとイリナ』だが、観ながら何だか不思議な映画だなー、と思っていた。この感じは何なんだろうなー、と思いながら観ていたのだがエンドロールをボーっと眺めているときにその理由が分かった気がした。
それが何なのかというと、本作のエンドロールには脚本のクレジットがなかったのだ、多分。まぁボーっと眺めていたから見落としただけかもしれんなぁ、と思っていたのだがそこでふと思ったことというのが「もしかしてこの映画ドキュメンタリーだったのでは?」ということであった。実は俺はこの『リンダとイリナ』という作品は劇映画だと思って観ていたし、山も谷もない展開ながらギヨーム・ブラックならこういう劇映画を撮りそうだなぁとか、40分の短編ならこういう見せ方にするのも全然あるよなぁ、とか思っていたのだが正直お芝居なのかドキュメンタリーなのかよく分からん印象の映画ではあったんですよね。モキュメンタリーというジャンル名を出すまでもなく、演出感をできるだけ排除した生々しい作風の劇映画というのは沢山あるわけで本作もそういう映画なのかなと思っていたんだよ。さらに言えばフランス映画ってそういう傾向の作品が多いし。
だから凄くドキュメンタリーチックな劇映画だと思ってたんだけどエンドロールでシナリオのクレジットが目に入らなかったから、アレ? って思って劇場を出た後にググってみたら「『リンダとイリナ』はギヨーム・ブラックのドキュメンタリー映画である」って出てきて、やっぱりかよーー!! って思っちゃいましたね。そうかー、そうだったのかー、そうかなーと思ったけどなー、って感じですよ、俺的には。
ちなみに映画の内容としては、コロナ禍中の夏休み前に女子高生が友人とダベってTikTok撮ったりしてるだけの緩い青春日常ものという感じ。だけどその仲良しグループの一人であるリンダが夏の終わりに引っ越すことになって…という映画ですね。
こういう短編から中編の映画はめちゃくちゃありそうな感じだな! って感じだけど本当にドキュメンタリーなのか? って思っちゃったね。コロナ禍中の中学や高校を取材している内にこの被写体を見つけたのだろうか。だったとしたらギヨーム・ブラック豪運だな。もちろんギヨームの切り取りがあっての本作なんだけど、リンダとイリナの関係性というかその空気感が芝居じゃないなら余りにも青春すぎて参ってしまいましたよ。実はタイトルには入っていないもう一人の女の子もいるんだけど、彼女を挟んでの二人の感情の機微というのが脚本あるだろ? と思ってしまうほどに青春映画だったのである。いや世に無数にある青春映画なんて所詮本物には敵わないということなのかもしれないが。
まぁそんな感じで嘘っぽさと嘘っぽくなさが絶妙な塩梅の映画でしたね。これは40分という尺だから描けたんじゃないかなという感じで、90分でも120分でもダメだったんじゃないかなと思う。何も終わっていないところで切るという終わり方が絶妙なんだよね。最後の劇伴なんかは作り物っぽさが凄いんだが、その前にあった自然音である雨音と合わせると凄く良いバランスになっていたと思う。映像もそうだけど音も実にいい瞬間を切り取ってたと思うな。さすがギヨーム・ブラックという映画でした。
最初にも書いたがこれは面白かったというよりも好きな映画だな。
ちなみに本作で900本目の感想文でした。いやーよく続いたもんだ。とりあえず1000本までは書く。
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