ヨーク

キノ・ライカ 小さな町の映画館のヨークのレビュー・感想・評価

3.7
俺の自宅からチャリで行ける距離に名画座的な小さな映画館があって、そこは早稲田松竹とか目黒シネマみたいに封切から数カ月経った映画をかけながら古い名作の特集上映とかをしている劇場なんですよ。個人的にも20年以上通っているので正にホームグラウンドな劇場といった感じで、観る映画のスケジュールを考えているときに(この映画は地元でやりそうだから後回しにしてもいいかな…)と大体上映作品の傾向が読めてしまうし実際にその読みが当たったこともある。本作『キノ・ライカ 小さな町の映画館』も(多分やるな…)と思っていたら実現したという作品でしたね。
でもこの『キノ・ライカ 小さな町の映画館』というのはどうせ地元の劇場でやるから後回しにしてもいいや、ということ以上に「この映画館で観たいしそれ以外の劇場で観るくらいならスルーでいいや」と思っていた作品なので地元のホームと胸を張って言える劇場で観ることができたのは本当に良かった。なので俺的にはその事実だけで満足で、内容とかはぶっちゃけどうでもいいやっていうところのある映画ではありました。いやまぁドキュメンタリー映画としてもそこそこは面白かったが、正直そこそこを越えるものではなかったなとは思う。でもそこのところはどうでもいいのだ。地元で観ることができたということが最も大事な作品なのだから。
内容は、北欧はフィンランドにある鉄工所から始まったという小さなカルッキラという町が舞台で、その森と湖に囲まれた小さな町の使われなくなった鉄工所を改装して映画館を作ろうという計画が立ち上がり、その映画館の誕生までを描いたドキュメンタリー映画である。一言で言えば田舎に映画館ができるだけの映画なのだが、本作の最大のセールスポイントとしてはフィンランドが誇る世界的な映画監督であるアキ・カウリスマキが舞台となるカルッキラの隣町出身で、劇中で描かれる映画館の建設もアキ・カウリスマキが中心となって立ち上げられたプロジェクトであるということであろう。そこが本作の最大の見どころですね。
タイトルにもある“ライカ”という語はアキ・カウリスマキのファンならピンとくるかもしれないが彼の飼い犬の名前である。そんなハンドメイド感丸出しな小劇場の完成までを見守る映画で、元鉄工所の一角で自らの手で釘を打ち、椅子を取りつけるアキ・カウリスマキとその仲間たちの姿を観ることができるのだから、それは中々に貴重なものを観られたなぁ、という感じで面白い。
まぁアキ・カウリスマキ自体はそこまで画面には映らずに、メインとなるのは町の人々へのインタビュー映像とかなのだが、そこで映され語られるものというのが古い車にバイクに酒と音楽、そして何よりも映画なのである。それはまるでカウリスマキの映画そのもので、カルッキラの住人たちはそのまんまアキ・カウリスマキ作品に出てきても違和感ない感じの人々なのが面白かったですねぇ。ま、そこは因果関係が逆で、アキ・カウリスマキはこのような人々や風景の中で生まれ育ったから映画監督としての作品群のスタイルが決まったのだろうと思うが。
その辺の雰囲気が凄く良かった、正直ドキュメンタリー映画の出来としてはそこまでグッとくるところはなくてインタビューと風景を無難に繋いだだけの作りだなぁと思うのだが、その素材自体がとてもいいのでいいえ画だとは思いますね。たまに出てくるアキ・カウリスマキがちょっとハードボイルド感出しすぎじゃないかとは思ったが…。あとジム・ジャームッシュがお仕事観全くなく楽しそうに雑談してる感じのインタビューだったのも面白かったな。何となく気難しそうなイメージがあったので。
映画を観ている限りはかなり田舎の立地に思えたので、まぁ肝心の映画館にはそんな客入んねぇだろとは思うが地元の人たちがめっちゃ喜んでいたのでヨシという感じでしたね。感想文の最初に戻るが、自宅からすぐのところに映画館があるってのはいいもんですよ。それをしみじみ感じることができるいいドキュメンタリーでしたね。ちなみに本作は3本ハシゴしたラストの1本なので疲れてウトウトしながら観ていたのだが、それくらいの緩さが最高に合う映画でした。
下高井戸で観ることができてよかった。
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