駿河台の山の上のホテル。作家のエッセイなどを読んでると時折登場するホテルで、作家に執筆してもらうために出版社が部屋を用意するとかいう場所として紹介されていた。漫画家や映画の脚本家などが、旅館やホテルを用意されて作業している風景を面白おかしく書かれているものですが、待遇は大分違う様だ。尤も、山の上のホテルといえば、川端康成、三島由紀夫、池波正太郎あたりの作家なので、滅多なことではあてがわれるものではないのでしょう。本作は、原作者柚木麻子の怨念なのでしょうか。
わたしは二度ばかり山の上のホテルに入ったことがある。無論、執筆の為でもなく、バーで寛ぐ為でもなく、てんぷらを堪能する為でもない。近くの健診クリニックで人間ドッグを受診した後に山の上のホテルランチ券が渡されたからです。ランチの味は忘れてしまったけれど、水出しコーヒーは美味しかった記憶がある。
さて、のんが主演だし、橋本愛が出ているし、高石あかりの名前もあったし、必ず観に出掛けようとインプットしていた本作なんだけれど、上映時間が全く合わずに時は流れていくばかりでようやく観ることができたのです。予告篇よりはずっと面白いという、最近では稀な作品です。
かつて新人賞を受賞して明るい作家生活を満喫するはずだったのに、とある作家の酷評でその後は鳴かず飛ばずという作家中島加代子を演じるのがのんです。本作では、加代子と因縁づくのとある作家東十条宗典の縺れ合う丁々発止が見所です。のんの顔芸が突き抜けておりますが、東十条を演じる滝藤賢一もノリノリで大家を演じております。
メフィストフェレスの如くに悪魔的な囁きを続けて加代子を誘ってしまう文芸誌編集者遠藤道雄/田中圭もまた折々に登場し、加代子の大混乱に手を貸します。
ストーリーそのものよりも、登場人物それぞれのペーソスが上手く演出されていて、のんの過剰とも思える顔芸との落差で更に際立つのですが、実は、のんのその過剰なお顔こそに、♬I can't get no satisfaction, /I can't get no satisfaction,/ 'Cause I try and I try and I try and I try./ I can't get no,/ I can't get no♬((I Can't Get No) Satisfaction/詩:JAGGER MICK , RICHARDS KEITH)という、人間の底のない欲求を感じてしまうのです。
高級クラブのママ/田中みな実がエロチックで、こんなことをアナウンサー時代もやってたんじゃあないかと、だから女性アナウンサーが誤解されるのかそれが実態なのか、そのことはいつの日か明らかになるのでしょう。