ホテルの閉鎖を目前にした伊豆のリゾート地を舞台に描かれる“今”と“思い出”の交錯。彷徨いゆく中で浮かび上がる途方のない喪失感、そして海辺の景色に溶けていった“過去”の行き着く先。作中のセミナーと同じ名を冠するタイトルは何処か皮肉めいた響きでありつつも、あの追憶に対する何らかの祈りを感じずにはいられない。
他のレビューでは度々『アフターサン』が比較対象として触れられているけど、海辺の観光地を舞台に“喪われた時間”を追憶するという意味では確かに近いものがある。とはいえ過去に焦点を合わせた“ホームビデオ”としての大胆な演出に徹していたあちらに比べると、本作はあくまて過去と現在の双方を並列して重ね合わせている印象。そして本作は演出や作風的にもインディペンデント感が強い。
伊豆のリゾート地の風景を映し出した撮影、全編に渡って印象に残るほどに鮮烈でとても良い。海辺の情景をロングショットで淡々と捉えたシーンの数々が映画全体の情感を高めている。海を背景にぽつんと白い椅子が佇んでいる一連のシーンなんかは何処かヌーヴェルヴァーグめいてて特に印象的。役者陣の淡々とした演技や緩やかな間の使い方は画面構図の秀逸さも相俟って却って作劇的ではあるけど、それ自体が映画のムードを構築しているので味わい深い。役者陣はいずれも好演であり、ホアン・ヌ・クイン氏が邦画では珍しい(しかし現実には確かに存在する)ベトナム人従業員を演じているのが印象的。
ただ過去を映し出す後半のパートに関しては前半=現在の描写を回収していく“答え合わせ”的な進行になっている印象が否めず、それ自体が後半で大きなウェイトを占めることもあって嵌まり切れなかった。また過去を踏まえても前半の自暴自棄な佐野の挙動にあまり感情移入はできず、佐野の描写があのシーンで終わることも相俟って幾らか感情の行き場を見失う部分もあった。とはいえ前半の喪失感と後半の幸福感を“あの美しい情景”の中で交錯させる作劇性そのものは興味深い。
そうしてあの二人の“思い出”が知らず知らずのうちにベトナム人従業員へと受け継がれていく結末、死や喪失が根底にある本作において明確にプラスへと向かっていく描写に思える。ホテルの閉鎖によってあの景色は喪われて、思い出は景色と共に遠ざかっていくけれど、それでも過去は現在と重なりながら未来へと繋がっていく。凪→佐野→アンがそれぞれの時間を背負い、あの地で確かに交わっていたのである。ラストを飾る『Beyond the Sea』の旋律と共に、何とも言えぬ余韻が込み上げてくる。