熱海は東側の海なので海に夕陽が沈まない。だから熱海は、日没の瞬間的なマジックアワーを海に臨むような分かりやすい映画的演出には適さない土地かもしれない。この映画の特筆すべきところは、マジックアワーやら夜明けやら、分かりやすい小手先の演出に頼らず、朝は朝、昼は昼、夜は夜という当然のサイクルの中で、物語を淡々と描き切っているところだと思う。夜中にカップ麺を食べたとしても、夜明けを待たずに眠る。この良心ともいえる日常性がしっかりいるからこそ、2人の出会いと感情の機微を丁寧に描くことに成功し、物語に刹那的なもので片付けない連続性が生まれているのだと思った。
個人的には主役2人の物語の構築は言うまでもないが、肉体と精神の安定をボクシングと宗教に頼らざるを得なかった宮田の背後に、作品の多層的な時の流れをより一層強く感じた。
1つ気になるところがあるとすれば、ベトナム人の従業員にマジカルな部分をやや背負わせている気がしたが、2人の物語が永遠に昇華されるとしたら、その役目は日本人ではないのかもしれないとも思った。
1カット1カットのカメラワーク、邦画っぽくない青味がかった仕上げも美しく、小ネタや会話のセンスも抜群で、上から目線で大変恐縮ですが、めっちゃ映画をわかってる方が作られた映画だと思いました。