ちょっと観る前は構えてたけど、いざ観てみたらなんてことはない、真正面なヴァカンス映画。
フランスが製作に参画しているだけあって邦画的な雰囲気があんまり感じられず、中期エリック・ロメール的な面倒くさい奴らの悲哀を謳う、そんなヴァカンス映画。
伊豆のリゾートホテルを舞台に、2023年(現在)と5年前に当たる2018年(過去)を前後半に分けて語られる。
前半の現在、かつて来たホテルはひと月後に閉館予定で、ベトナムからの実習生など一足早く退職する従業員もチラホラ。
そんなホテルに、最近亡くなった妻が5年前に失くしたと言う赤いキャップを探しに、佐野と宮田がやってくるのが前半。
佐野とその地で出逢いその縁で結婚した佐野凪の視点で語られる過去が後半。
前半のやけっぱちで全部どうでもよくなってそうな佐野と、カルト宗教っぽい有害なセミナーに傾倒してて当然のことを然も金言であるかのように言うようになってる。
そんな流れなもんだから重苦しい空気のまま話は進むが、ちょうど折り返し辺りで凪に視点が映ってからは打って変わって話も明るさを取り戻す。
言うて、5年後には暗くなることが確定している程度の明るさだが、一瞬のきらめきと言う言葉で表現するには的確だとも思う。
後半の流れは、前半でカルトに傾倒した宮田が言ってたような運命のいたずら的偶然が重なった結果、自然と佐野と凪が惹かれ合う流れに持っていく感じで、無価値なカルトに頼らずとも転がり込む者には転がり込む、と言うのがよく描かれていた。
(前半と比べて宮田があまりにも変わり過ぎてたのもビックリした。なんでこの状態からボクサーに?!)
自分は運命論は信じていないが気にしてはいる、そんな人間だ。
そして、人間は運命に抗えない、とも思っているが、抗えないから抗わないと言うのは怠慢であるとも思っている。
その結果、佐野の現在の態度に少しの苛立ちと、行く先がどうなるかと言う不安感を抱いたが、本当に彼はこれからどこへ行くんだろう(作中の重要なファクターである赤い帽子と、それに関する凪と従業員の顛末も、彼は結局気付くことがなかったが)。