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リリー・マルレーン 4K デジタルリマスター版のzhenli13のレビュー・感想・評価

3.8
もうひとつの『マリア・ブラウンの結婚』という感じだけど『マリア・ブラウン』の方が断然よい。通り一遍の脚本かな。とはいえ敢えて通俗性を辞さぬまま画づくりはファスビンダー全開で、久しぶりのファスビンダーはやはりいいなぁと思いながら観ていた。
ハンナ・シグラの青みがかった濃ピンクの口紅と輝かしく幾度も変わる衣裳、マリア・ブラウンを彷彿とさせる強くしなやかに時局を生き抜こうとする姿。仁王立ちで初舞台を踏む彼女がとてもよかった。原色の照明や鏡使いやカメラの動線、そして常連役者たちによりそこはかとなく妖しい倒錯ぶりが醸される。劇伴が過剰に劇的で、ヘテロセクシャルな関係しか描かれないのも珍しいのでは。
『マリア・ブラウンの結婚』でも印象的だったファスビンダー作品常連ハーク・ボームがまた好い役なの。ピアノ弾きとしてハンナ・シグラのビジネスパートナーになりタロットカードをいつも持ってて、ナチス将校に逆らい前線送りになる。彼の存在そのものが死亡フラグで、前線行きの際「カードを持ってくるのを忘れたけどいいや」と言う弱々しい笑顔が泣ける。

ナチス党大会の巨大舞台とエキストラなどかなり金かかってそう。ハンナ・シグラがナチス将校や兵士たちの前で『リリー・マルレーン』を歌うたびに前線での爆撃や戦闘でどんどん兵士が倒れるようすが彼女の煌びやかな姿とカットバックされるのが凄まじく異質で、戦場シーンまで撮っててすごいなと思ったらドイツ語版Wikipediaによるとこの戦場シーンはサム・ペキンパー『戦場のはらわた』のアウトテイクだそうな。ホントか?
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