浦切三語

アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方の浦切三語のレビュー・感想・評価

4.2
【動画版感想】
https://youtu.be/jL-9SQ9vTYE

ただのトランプ批判映画ではありません。というか、そんな安っぽい映画をアリ・アッバシが創るとお思いか?これは真っ当な娯楽映画。作った映画がその土地の質感を持つのがアリ・アッバシ監督の特徴ですが、今回もしっかり1970年代のポリコレブーム前のアメリカはニューヨーク・マンハッタンの猥雑な空気感の出ている「アメリカ映画」になっている。

同性愛、乱交、差別発言のオンパレード、臭い、汚い……過激であり、男臭いを超えてザーメン臭くなる映画の残像は、トランプタワー竣工記念のシーンにおいても亡霊のように漂い続けている。マンハッタンの裏路地や大通りを徘徊していた浮浪者や立ちんぼたちは、言うまでもなく人生の敗者であり、トランプさんは敗者を搾取する殺し屋タイプの勝利者。映画が進むにつれ、トランプさんの周りの人たちは結果的にトランプさんに搾取されて干からびていく一方、トランプさん自身は立場も体型もどんどんビッグになっていく。そんなトランプさんが脂肪吸引をするシーンに宿るこの映画随一のグロテスクさは、アメリカという国のグロテスクさを表現している。

アリ・アッバシ監督の痛烈なアメリカ批判映画でありながら不思議と説教臭くないのは、本作が成り上がりもの映画として完成されているからであり、娯楽映画として(間違っても伝記映画ではない。この映画はドナルド・トランプという人物が抱えている、無数の真実のうちのひとつしか描いてないから)面白いからに他ならないのです。
浦切三語

浦切三語